【レポート】 公演映像の教育活用の現在──「教育機関向け舞台芸術映像 配信サービス(みるステ)」トライアル校を取材して
舞台芸術アーカイブの利活用を推進するEPAD。
舞台公演映像の収集や権利処理サポート、新規公演の高画質収録や全国各地での上映会など、多岐にわたる事業のひとつに、教育利用の促進がある。
舞台芸術鑑賞における地域格差、時間的・経済的障壁を解消し、次世代へ舞台芸術文化を継承するべく、教育機関での舞台公演映像活用の研究開発を進めてきた。その取り組みから生まれたのが、舞台芸術映像配信サービス「みるステ」である。
「みるステ」では、EPADがこれまで収集した4000以上の舞台公演映像のうち、配信の権利処理を行った作品から、有識者が選定した160作品以上の作品映像を、教育現場で視聴することができる。
視聴可能作品は、演劇、舞踊、伝統芸能など多様なジャンルの舞台公演映像で、「みるステ」のみで見ることのできる作品も含まれている。
動画視聴においては、寺田倉庫のコンテンツ管理システム「Terra sight」を使用。学校内のパソコンでの視聴が想定されている仕組みだ。
さらに、教員に向けた解説テキスト「COMPASS」、アーティストインタビュー動画といった補助教材も提供しており、教育現場で扱い易い構成となっている。
「COMPASS」では、視聴可能作品のなかから、作家や作品の解説、ならびに教材としての使用プランを提案。
アーティストインタビュー動画では、作品の作り手に実際に話を聞くことで、作品のより深い理解を促している。
こうした作品選定や教材開発は、演劇史や身体表現・アートを活用したコミュニケーション教育などの講義を担当する教員ら有識者により行われている。


実際にこの「みるステ」を取り入れているのが、名古屋芸術大学芸術学部芸術学科舞台芸術領域舞台プロデュースコースで行われている授業「舞台芸術演習」だ。

受講するのは、舞台芸術について実践的に学ぶ領域で制作や企画プロデュースを学ぶコースに所属する学生たち。公演企画の立て方や企画書の書き方、助成金の申請やチラシ制作・受付案内に至るまで、舞台をゼロから作るために必要な企画・プロデュースについて、授業を通じて実践的に学んでいく。
この授業で学生は、事前に指定された作品の映像視聴とレポートを提出。それをもとに授業内で発表とディスカッションが行われる。
視聴可能作品のなかから授業回数に応じて選ばれた15作品について、授業担当の林真智子講師は「世代や作風ができるだけバラけるように選んだ」と語る。
この日の課題はFUKAIPRODUCE羽衣『スモール アニマル キッス キッス』(2020)。
エモーションを掻き立てる音楽劇としてのインパクトや、録音済み歌唱に合わせる「口パク」という特徴的な演出、作中で印象的だったセリフなど、学生たちは様々な視点から、作品にこめられた意図や観客への効果を分析していく。

取材は12回目の授業日だったが、林講師によると、授業開始当初はプレーンな感想文の提出から始め、徐々に視点や切り口(例えば演出やセリフに着目するなど)を指定した課題を出していったという。
様々な作品を知り、演出やテーマについて客観視して分析、言語化できることは、制作やプロデュースにおいて必須のスキルといえる。
林講師は、大都市に比べ気軽に舞台鑑賞する機会が乏しい学生たちにとって、多くの作品を鑑賞すること、そして演出や物語についての言語化のトレーニングはよい影響となっていると語る。
「学生たちが作品を俯瞰的に観ることができるようになり、自分の言葉で作品を語れるようになった」と、この授業を通じた学生の変化を語る。
学生たちは、映像による作品鑑賞を用いた授業について「書いていく内に〝自分はこんなふうに思っていたのか〟と気づくようになった」「コメントを書いたあとのディスカッションで、自分と違う見方を知ることができた」「今まで感じていても言葉にしなかったことが自分のものになる感覚」と実感を語った。
また、授業で観たなかで印象に残った作品として『父と暮せば(2021 ver)』(こまつ座、2021)や『ハッピーソング』(「老いと演劇」OiBokkeShi、2020)、『薄い桃色のかたまり』(さいたまゴールド・シアター、2017)などの作品が挙がった。
いずれも各学生にとって映像を通しての初見だったというが、特に全員から名前があがった『父と暮せば』は、その物語性や、テーマである戦争、父との関係について鮮明に語られ、映像を通してでも学生に強い印象を残したことがうかがえた。
課題作品の中には10年以上前の公演映像も含まれるが、作品ごとに異なる画質については「あまり気にならない」「観ているうちに慣れる」という回答があった。映像より、せりふの聞き取りやすさや字幕といった音声面が鑑賞のしやすさにつながる、という声が聞かれた。
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実際に舞台公演映像を活用している現場に参加してみて、授業という連続性のあるミニマムな場で、作品を媒介にコミュニケーションを取っていく経験はとても得難い時間だと感じた。
また、名作として知られていても再演がない限り観ること自体が難しい作品の鑑賞機会でもあり、地理的条件で回数も限られてくる観劇体験を補填する効果も果たしている。
今回取材したのは舞台制作について学ぶ授業だったが、戯曲の物語性や俳優の身体表現など、舞台芸術の多面的な特徴は、教材として人文分野の様々な学びに貢献する可能性を持つ。もちろん利用する教育機関の対象年齢によっても多様な活用の仕方があるだろう。
様々な可能性を感じさせる舞台公演映像の教育活用。舞台芸術文化を未来の創造者に継承し、観客の土壌を耕すためにも、さらなる拡大が期待される。
取材・文・写真:北原美那
※授業中の風景はEPAD事務局撮影
*「みるステ」詳細
ただいま無料トライアルの事前予約を受付中です(無料トライアル期間:2026年4月1日(水)〜2027年3月31日(水))
https://epad.jp/mirusute/





