【レポート】「記録」を「創造」へ──舞台芸術アーカイブ講座2025
観客と時間・空間を共有し、「生もの」や「消えもの」とも呼ばれる舞台芸術。上演そのものを残すことができない舞台芸術のアーカイブは、公演映像や戯曲、舞台美術、ポスター、フライヤー、劇評など多岐にわたる。
そうした周辺資料の記録、収集、保存が、「消えもの」としての舞台芸術を未来に繋げていく。
舞台芸術のアーカイブについて学ぶことができる「舞台芸術アーカイブ講座2025」は、舞台芸術の創作・マネジメントに従事する実務者へ向けて、それぞれの活動や目的に即したアーカイブの構築・運用をめざす連続講座だ。
早稲田大学演劇博物館が3年間に渡って実施した「ドーナツ・プロジェクト」(令和4年度〜6年度文化庁「大学における文化芸術推進事業」)で蒔かれた種を、より実践的で「すぐ役立つ」スキルとして育てていくことを目指して設計された。
受講対象者として、劇団の制作やスタッフ、実演家やアーティスト、劇場や文化施設の職員、アートマネジメントを学ぶ学生などが挙げられており、現場ですぐに活かせる知識とノウハウを詰め込んだ、より実践的なものといえる。
全7回の講座の受講方法は、定められた日時にオンラインで受講するリアルタイム講座(2025年12月15日から2026年2月9日まで実施)と、期間内に配信された講座を初回ログインから720時間まで視聴できるオンデマンド講座(2026年1月23日から3月15日まで)に分かれている。
リアルタイム講座では、全講座の視聴と最終講座後に送付されるアンケートへの回答をもって修了証が授与される。
全7回の講座は[1.基礎][2.実践][3.実践Ⅱ]に大別され、オンデマンド講座では3つのパッケージのいずれかのみを選択して受講することも可能だ。
さらに2月23日には、主に受講生を対象とした、アーカイブが学べる対面ワークショップ『アーキビスト・イン・マイ・マインド』も行なった。

ここでは2025年12月15日に行われたリアルタイム講座の様子をお伝えする。
受講者には事前に、動画のスライドと講義内容をまとめたPDFの資料2点が共有された。
この日は初回講座。舞台芸術アーカイブ講座全体についての紹介、本講座の前身となる「ドーナツ・プロジェクト」を手掛けた早稲田大学演劇博物館元館長である監修の岡室美奈子氏による挨拶、本日の流れと資料の確認など、10分程度の導入があったあと、講義の動画が再生される。
今回の講座は志村聖子講師による「舞台芸術アーカイブのいま」。
ライデン大学客員研究員であり、西洋音楽からアートマネジメントを学び、伝統芸能の発信や継承をテーマに研究や人材育成を行う志村氏が、舞台芸術アーカイブの特性、アーカイブの定義と多様性、さらにアーカイブの持つ公共性や価値について解説。歴史的な変遷やこれまでの議論、海外の事例といった具体例を紹介しながら、舞台芸術アーカイブの抱える課題や今後への視点が提示された。
講義動画の終了後、受講者からの質問フォームを用いた質疑応答の時間がもうけられ、リアルタイムで参加している志村講師、岡室氏が回答していく。
リアルタイム講座は、動画視聴とアンケートの回答をもって各回の出席となる。「リアルタイム」というが、配信日時に間に合わなくても、講座本編の視聴期間内に条件がクリアできれば出席扱いとなる。

「舞台芸術アーカイブ講座」は、現場で日々アーカイブを実践する実務者が受講者として想定されている。
初回講座もそうした前提のもと、舞台芸術アーカイブの特性や特有の難しさの共有に始まり、アーカイブの歴史的な変遷やこれまでの議論、実際に行われてきた施策などを参照し、アーカイブの歴史、現在地、今後の展望について学ぶことができた。
初回講座での「アーカイブとは何なのか」「どんな議論が行われているのか」「今後どうなっていくのか」といった内容は、個々人がそれぞれの場所で、限られたリソースの中で自分たちのアーカイブを作っていくために行う判断の根幹となる、とても実践的な内容だと感じた。
アーカイブ作業には多様な知識やスキルが必要となるが、この連続講座の内容も、そうした多岐にわたる情報をカバーするものになる。
この後の第2回講座は、著作権や著作隣接権、肖像権といった、舞台芸術アーカイブにとって必要な権利処理の基礎知識を、第3回講座は記録を残しアーカイブを構築する方法や整理を進めるための基礎知識を学んでいく。
いずれも、実務の中で断片的に処理したり具体的なケースで学ぶことはあっても、考え方も含めた一連のパッケージとして自分のものとするには相応の時間やコストを必要とする知識だ。
舞台芸術のアーカイブという目的を想定した一時間弱の講座で概要を学ぶことができるのは、ある意味で効率的とさえ感じた。
また、リアルタイム講座での質疑応答の時間は、講義内容の理解をより深める効果はもちろん、質問から自分では思いつかなかった視点も知ることができた。オンラインでの受講ということもあり、一足飛びに受講生同士のコミュニケーションに直結するわけではないが、自分と同じようにアーカイブについて学ぶ受講生の存在を感じることは、ある種の心強さや学びが広がる機会になるとも感じた。
ウェビナーの使い方も洗練されていて、戸惑うことや不明瞭な点はなかった。オンライン講座を受けるうえで、こうした細部のストレスの少なさも魅力のひとつだ。
舞台芸術アーカイブ講座では、『「記録」を「創造」へ』とうたわれている。アーカイブを記録・保存としてだけではなく、創造的ないとなみとしても捉え学んでいくことで、すでに持っている資産に新しい光を当て、未来へ伝えていくことができるはずだ。
取材・文:北原美那
「舞台芸術アーカイブ講座 2025」
講座概要:https://epad.jp/news/donuts_course2025/
※申込み受付は終了いたしました





