EPADパートナーインタビュー:須藤崇規(合同会社小声・代表)

映像を通してさまざまな立場から舞台業界を見つめてきた合同会社小声・代表の須藤崇規(すどう・たかき)氏。現在は舞台公演映像の収録にとどまらず、上映会実施やアーカイブ講座の講師など多角的に舞台業界に関わり続けている。こうした活動のなかで蓄積された知見や視点は、舞台作品の記録やアーカイブの発展に大きな影響を与え、業界全体に有機的に広がっている。収録・上映・配信を横断する取り組みのなかで、その活動はEPADとどのように交わり、何を目指して展開されてきたのか。これまでの歩みと現在地について話を伺った。
 


 
——これまでのEPADでのお仕事を、きっかけからうかがえればと思います。
 
そもそもEPADを知ったのは2022年12月の上映会「天王洲電市」で、ここで8K上映を初めて体験しました。当時はマルチカム収録で使用する1台として8Kカメラを扱っていたので、自分の機材や能力を他の形で使えるかもしれない、という確認の気持ちもありました。
翌2023年、所属している舞台映像協会の人間としてEPADの8K収録に携わり、『文豪ストレイドッグス』の8K収録や、いま各地で行なっている上映会のベースになる、8Kの映像を活用した上映のシステム設計や、映像や音の出し方のテストにも関わり始めました。12月には、ロームシアター京都でチェルフィッチュ『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』の定点映像の収録と上映を行ないました。
 
2024年度に入ると、今度は自分の会社としてEPADに関わり、主に8Kの収録をしました。EPADの公募で採択されたカンパニーから収録を依頼された作品と、EPADから依頼されて技術提供しに行く作品があり、やることは基本的に同じですが、EPADが技術支援をするものはEPADに制作として入っていただいて、カンパニー経由の収録に関しては、僕自身が収録の進行、マネジメントも担当しました。
 
8Kの知見の集約やコストの面で評価いただけたようで、今年度に入ってからは、特に小さい劇場での8K収録のご依頼をいただくことが増えた印象があります。また、今年度から新しくご依頼いただいた「舞台芸術アーカイブ講座」では、講座動画のディレクター、記録映像のディレクターとしてお話をする講師、講座全体のトータルアドバイザー、と複数の役割で参加しています。動画の編集も自分が行っているのでので、アドバイスをしつつ、そのアドバイスを反映していくのも自分、みたいなことになっていますね(笑)。
 
——収録だけでなく上映会や、アーカイブ講座の講師、動画制作など、EPADの中でも様々な活動をされているんですね。
 
対外的に自分の仕事を説明するときに「舞台や美術、文化芸術に関わる映像全般を請け負います」という言い方をしているんですが、収録、上映、配信などどこかに特化した形ではなく、すべてを通しでできることを強みにしています。一つのカンパニーと、作品の映像収録、舞台映像のデザイン、収録したものの配信など、いろんな関わりをしているパターンが多いです。EPADの中でも、複数の分野にまたがる知見があることがアドバンテージになっているのかと思います。特に8K映像を活用した上映は、収録のやり方とも切り離せないので、そこをトータルでケアできることが強みになっているのかなと思っています。
 
——8K映像を活用した上映会は、EPADで携わる以前から手掛けていたのでしょうか。
 
現在のEPADがやっているような、舞台の再現としての等身大上映の経験はありませんでしたが、舞台映像のデザインのひとつとして、舞台上で人物を投影する時に、どんなサイズ感だと実際の人物だと錯覚できるのか、という知見はたくさんありました。
例えば映像として参加した伊藤キムさんのソロ作品『ダミーズ』は、伊藤キムさんを複数にコピーしてダミーを作る、といった意味合いで、舞台上に小さなスクリーンを4枚置き、等身大の伊藤キムさんが他に4人いるように見える作品でした。
また、加藤訓子さんの『PROJECT IX PLEIADES(プレイアデス)』は、本来は6名で演奏するクセナキスの楽曲を、彼女一人がすべてのパートを演奏し多重録音している作品ですが、それを舞台上で演奏する際、舞台上にいる生身の加藤さんと、他に11人の加藤さんがいる状態を作ったこともありました。
そういったバックグラウンドがあって、8K上映で、没入感や、本当の人物がいるような錯覚を出すための答えに行き着くのが比較的早かったのかもしれません。
 
——ご自身のクリエイションの経験と知見が活きたんですね。多様なご活躍をされる中でも印象的だったご経験をうかがえますか。
 
2024年度に収録したチェルフィッチュ×藤倉大『リビングルームのメタモルフォーシス』は、8K定点収録とマルチカム収録を同時に行なった作品で、自分の中でブレイクスルーになった経験でした。本来は8Kとマルチカムは別々のタイミングに撮った方が、手間は増えても安心できることも多いんですが、撮影できるタイミングの都合上、同時に撮ることになりました。
 

収録時の様子

 
舞台後方にカメラを6台設置していて、中心の3台が定点です。8K用のカメラ2台にマルチカム用が1台で、定点とマルチカムはフレームレートが異なるのでカメラを分けています。
この場所にカメラマンが4人並んでいました。8K収録は揺れが大敵なんですが、お願いした方の理解もあって非常に静かに撮影していただきました。また、1台はワイヤレス操作で別のカメラマンが操作するという、ちょっとトリッキーなこともしています。
 
カメラが増えてマイクの配置に苦労したり、普通の収録に比べて劇場の入り時間がとても早かったり、そもそも8K収録とマルチカム収録とではポスプロの作業内容が異なり収録時に留意する点も異なるため、いろいろ大変でしたが「やりきったな」という感じはありましたね。これ以降、同時収録の機会も増えました。カンパニー側への影響を考えると、撮影の機会を集約させられるのはとてもいいことだと思います。そのためには8Kとマルチカム、両方を知っている必要があるので、やはり僕自身が舞台のクリエーションに関わっていて、舞台の作り方を知っていることも大きいかと思います。
 
——舞台の作り方を知ることで言うと、昨年の「舞台公演映像見本市」でも、須藤さんが舞台の映像化を「演劇的な言語から映像的な言語に翻訳する」と表現されていたのが印象的でした。
 
「翻訳」というワードに行き着くまでに、自分の中でもさまざまなキーワードが生まれていた時期がありました。
2013年11月に撮ったF/T13の、中野成樹、長島確『四谷雑談集』+『四家の怪談』は、いわゆるツアーと呼ばれる、街の中で上演される2本立ての作品でした。そのうち一つは、物語が記された本と一緒に観客が自由に街を歩くもので、スタートも終わりも自由。これをどうやって映像記録に残せばいいのか、と考えるうち、自分の中で「燻製」という言葉に思い至りました。自分の今までの方法は、アーティストが考えていることを丁寧にエッセンスを抽出してそれをつなげる、つまり生ものをできるだけ新鮮なまま残す「冷凍保存」だと気づきました。そう考えると、冷凍以外の保存方法もある。そこで「今回は「燻製」にすればいいんだ」と腑に落ちました。保存するときに味を変えなければいけないこともある、ということですね。
 
だけど何でもかんでも燻製にすればいいわけじゃなく、保存対象とその保存の仕方のカップリングを表現する言葉を探すなかで「翻訳」という言葉に行き着きました。翻訳は、まず元の言語をちゃんと扱って、その上で習熟している別の言語に直す、つまり2つの言語を知っていないとできない。それが舞台収録と実はとても似ているなと思ったんです。映像の専門家は、これまでの映像言語の蓄積や、自分で発見した新しい映像言語を使って作品を作っている。だけど、読めないものを別の言語に翻訳することはできないように、舞台側の言語のことも知らないと、そもそも翻訳もできない。
だから、舞台映像を作るときに僕自身が一番最初にやることは、舞台をしっかり読むことなんですよね。台本を読んだり、稽古場に行ったり、ゲネを見たり、その舞台について考えて、作品にちゃんと感動する。そうじゃないと撮れない。少なくとも僕自身はそういう作り方をしている感じがします。
 
——ありがとうございます。須藤さんの会社であるコレクティブ小声さんの「STUDIOマドノソト」は、8K対応の映像編集スタジオ兼プレビュールームですが、どのように利用されているんでしょうか。
 
今は大体7、8割は、8Kやマルチカムの編集など、僕が請け負っている仕事で使っています。また、編集を人にお任せする際も、スタジオに集まって一緒に視聴しながら進められるので、いろんな面でスムーズに行くことが増えましたね。
残りの2割は、映画関係の試写会や内々での試写、あとは撮影で使ってもらったり、当初想定してなかったちょっと変わった使い方も多いですね。
 
——先日のトークで「マドノソト」を紹介された際も話されていましたが、個人や小規模団体、若手の映像ディレクターが8K収録を始める際、どのようなハードルがあるのでしょうか。
 
とにかく時間やお金が膨大にかかることは問題になりがちですが、いくつかに分けて考えると理解しやすいかと思います。まず経費の問題として、8K収録はとにかくデータ量が膨大で、上演時間2時間の作品だと納品するまでに16テラバイトのハードディスクを1台使い果たします。小規模であればあるほどこれが負担になると思います。カメラなど機材費に関しては、ある程度時間が解決してくれる面にも期待していますが、現状ではまだ時間がかかりそうな感じもします。
制作面でも、扱うデータ量が膨大なので、単純に素材を見るだけでも時間がかかりますし、例えばカラーを整えた上で書き出すレンダリング作業なら、1日かけてレンダリングして、30分直して、また1日かけてレンダリング……と、20年前の作業に戻ったような感覚ですね。録音を他社に任せるか自社でやるか、自分のところでやりたいけれどもノウハウがない、という場合も多いんじゃないかと思います。技術を実践で勉強する機会も、舞台収録の場合は非常に限られている。これは個人の力じゃなく業界全体で考えないといけないことかもしれないですね。
 
——ありがとうございます。最後に、EPADでも須藤さん自身のお仕事でも、今後注力していきたい課題や展望をうかがいたいです。
 
8K収録に関しては、やはりコスト面はとても大きいので、今請け負う仕事は何かしらでEPADが関わるものが多いです。「上映や記録といえばEPAD」という形になっていて、それはとてもいいことなんですが、アーカイブの歴史を考えると、どう多様な記録を残していくかは芸術が考えるべき問題でもあります。
依頼を請け負うだけではない収録会社側からのアプローチや、それに際した制作の人手など、考えるべきところは多くありますが、どこかひとつに頼らないアーカイブのあり方も、模索しチャレンジしたいところでもあります。
 

 
 
(2025年12月取材)
取材・文:北原美那