EPADパートナーインタビュー:清藤寧(4K8K超高精細映像活用 監修・コーディネート)

NHKで報道番組のディレクターやプロデューサーとしてキャリアを重ね、東京オリンピック・パラリンピックに向けて立ち上がった4K・8K放送の普及や広報にも携わってきた清藤寧(せいとう・やすし)氏。その専門性は、EPADが推進する8K収録や上映イベントにおいても大きな力を発揮している。8Kという技術を長年見つめてきた清藤氏の視点から、8Kの技術的状況やEPADの取り組みについて話を聞いた。
 


 
——EPADとお仕事をされるようになったきっかけからうかがえますでしょうか。
 
私はもともとNHKで報道番組等のディレクター、プロデューサーをしていたのですが、2014年頃から、東京オリンピック・パラリンピックに向けてNHKと民放で新たに立ち上げた4K・8Kの放送の、普及や広報を行なっていました。国内外で上映イベントや展示などをしながら、より多くの方々に8K放送を見てもらうことを模索する中で、2019年頃に東京芸術劇場に8Kを活用した展示についてご提案しました。その時に副館長だったのが今のEPAD顧問の高萩宏さんで、数年後、2023年の初めごろに高萩さんから声をかけていただいたのが直接のきっかけとなります。
その少し前、2022年12月に東宝さんの『アルキメデスの大戦』8K映像上映や、2023年1月のEPADさんの上映会「天王洲電市」を個人的な興味関心で見ていて、演劇の8K上映の取り組み自体に大きな可能性を感じつつ、映像や音響の面でまだ改善できる点があると感じていました。ですので高萩さんからのお話を渡りに船という形でお引き受けし、現在はNHKグループで関わっている8Kでの収録と、大画面での上映イベントの取りまとめに、総括的な立場として関わっています。
 
——これまでEPADでされてきた収録や上映イベントで印象に残っていることはありますでしょうか。
 
2023年7月に『笑の大学』や『「THE BEE」Japanese Version』を上映したイベントでは、技術的なサポートはアストロデザインさんがされていて、僕は監修という形で入りました。8Kを大画面で見るとどうなるか元々わかってはいたつもりなんですが、実際に定点で撮ったものを大画面で、しかも劇場で上映した時に、「これはすごいな」と思いました。僕自身もいろんな8Kの映像を見てきましたが、本当に実際の演劇がその場で行われていると錯覚をするほどのリアリティと臨場感があって、EPADさんの取り組みの、先見性と大きな意味を改めて感じました。
 
また、今我々が撮影させていただく場合は、基本的には8Kのテレビ用カメラではなく、いわゆるスチール用の一眼レフカメラの動画機能を使用しているのですが、それで一番最初に撮影したのが2023年にシアタートラムで上演された『ブレイキング・ザ・コード』でした。この時も、撮影された映像のクオリティの高さ、実際にそこで演じられている舞台がそのまま冷凍保存できるという可能性をあらためて確認して、興奮とともに「やはり8Kはこのやり方で活かせる」と思ったのが印象に残っています。
 
——定点撮影、等身大サイズでの上映に新しい可能性を感じられたのですね。
 
8Kを扱いながら、「今までのテレビとは根本的に何かが違う」と感じていました。テレビや映画は、複数台のカメラで撮影した映像を後から編集して作品を作ることが多いのですが、8Kの場合は映像の力が非常に強いので、画面にじーっと見入ってしまい、カットを変えられると違和感を感じることが多いんです。だから、8Kはカメラの台数を少なくした方がいいと思ってはいたんですが、いざ舞台芸術の世界で8K定点にした時の、映像の持つ力強さにはかなり大きな衝撃がありました。
 
——テレビ用のカメラではなくスチール一眼を提案された理由はなんでしょうか。
 
定点でステージをそのまま記録するとお話をうかがった時に、8Kの動画を撮ることができる、デジタル一眼カメラのフラグシップ機種が一番向いていると感じました。こうした民生機のカメラは、プロフェッショナル用の機材と比べると価格がかなり抑えられます。また8Kは3300万画素ですが、デジタル一眼には4000万画素や5000万画素、8Kを超えるイメージセンサーを持った機種も出てきていて、実はクオリティも8Kのテレビカメラより高いです。サイズも小さいので、撮影の時に潰す座席数も少なくて済むのも利点ですね。コストも含めたいろんな可能性も含めて提案し、採用していただきました。
 
——あらためて8Kの特徴、どういうメディアかを教えていただけますでしょうか。
 
8Kを語るとき、今のハイビジョンの16倍の3300万画素で映像の情報量が多いと言われますが、実は画素数だけじゃなく、色の豊かさを表す色域、HDRという暗いところから明るいところまでカバーできる新しい技術、グラデーションの細かさ、いろんな要素が相まって超高精細映像ができています。
最大の特徴は、人間の肉眼で見た感覚に極めて近いものになっていることです。8Kの映像を見ると、最初は映像だと思っても、数分経つと映像なのか、本物が目の前にあってそれを見ているのかわからないレベルです。「より綺麗なハイビジョン」ではなく、全く別の映像メディアと言えると思います。
 
8Kはもともとは、今のハイビジョンの先のテレビを作ろうとNHKの放送技術研究所が開発した技術ですが、テレビがパーソナル化していく時代の中で、8K、4Kはむしろテレビの枠を超えた大きい画面で見た方が本来のクオリティを出せると思います。パブリックビューイングや上映会で多くの人たちが一つの場所に集まって同じものを見て同じ体験をできる、そこに大きな可能性があるんじゃないかと感じています。
 
現在、8K放送を行っているのは主に日本ですが、これまで世界各国の放送局と協力してきました。やはりスポーツが一番関心が高く、オリンピックやワールドカップなど各国の大きなスポーツイベントを8Kで収録しました。一方ハリウッドの映画業界でも撮影で8Kカメラが使われていて、最近の映画だと例えば『トップガン マーヴェリック』などでも8Kカメラが使用され、それを2K、 4Kに変換して上映しています。映像の世界はより綺麗なもの、臨場感のあるものを求めていくので、EPADさんの取り組みも含め、実は世界的には広がっているかと思います。
 
——舞台公演は、8K定点の被写体に向いているのでしょうか。
 
両面あると思います。舞台はステージの間口の中で行われる世界なので、限られたフレームに合わせる形で撮るという意味ではやりやすい。また、スポーツや音楽に比べるとフィールドがやや小さく、カメラを振らなくても全景が映るので、そういった意味では定点が撮りやすいですね。
一方で、実は8Kに限らずテレビカメラは暗いところが苦手で、どうしてもノイズが出やすい。だから芝居につきものの照明が暗めのシーンや暗転を撮るには技術力が必要です。明るさの幅はHDRという技術である程度カバーできますが、逆に言うと、人間の目がどれだけ優秀かということでもあります。暗いところと明るいところが激しく入り交じってもついていく人間の目に、現状では機械はなかなかついていけないところです。
 
——清藤さんが収録を担当されたケムリ研究室no.3『眠くなっちゃった』は、重要な演出としてプロジェクションマッピングが多く使われていました。
 
あの撮影は一番難易度の高いものの一つでした。収録では、より暗いところの撮影も強いSONYさんのVENICEⅡという映画用のカメラで撮りました。暗いところもノイズがなく、プロジェクションマッピングの映像も綺麗に撮れたと思います。撮影されたソニーPCLさんの8Kチームが、日本の中でもトップクラスで、非常にクオリティの高い形で撮ることができました。
 
——現状の8Kに感じられる課題があれば教えてください。
 
残念ながら、8K普及がなかなか進んでいないと感じています。機材などコストの高さに加え、実際に8K映像を見ていただくまでのハードルが高いと感じています。見ていただけたら、その優位性をわかっていただける自信はあるのですが。 EPADさんの取り組みでも、最初は抵抗感や後ろ向きな反応があっても、実際に見て考えが変わった方も多くいらっしゃると聞いています。長い目で見てある程度地道に取り組んでいくしかないところです。
 
——EPADの活動へのお考え、今後期待することなどうかがえますでしょうか。
 
我々がサポートさせていただいてる8K技術はあくまでもツールなので、これをどう使って、どういう世界を実現したいか、ビジョンが重要だと思うんですね。
8Kで記録してデジタルアーカイブを後世に残すとともに、それを利活用して上映会をやるというEPADさんの活動は、おそらく舞台芸術業界としては新しいチャレンジだと思いますが、これが定着していけば、東京や大阪でしか見られなかった演劇を、リアリティ、臨場感を持った8Kの形で地方でも見ることができる。あるいはもう今は見ることができなくなった舞台を、十年後、二十年後にも、高いクオリティで見ることができる。時間と空間を越えて、当時の生の上演を見たお客様と同じような体験を再現して追体験できる、ものすごい大きな意味と可能性がある取り組みだと思っています。
 
舞台公演に限らず音楽ライブなどでも、「記録映像で見せるとライブの観客が減る」と言われることがありますが、実際は逆なんですよね。手掛けた音楽ライブの上映会でも、お客さまからの感想は「ああいうのを見ると本物のライブを見たくなる」というものでした。映像で満足される方もいるかもしれませんが、「これを生で見たらどれだけすごいんだろう」と映像に触発されて劇場に足を運ぶ方も絶対に出てきます。演目によってはプラチナチケット化してチケットが取れない方々へのアプローチもある。活用の仕方次第でいろんな可能性があるんじゃないかと思います。
 
まだ世界で誰もやってないことにチャレンジする、ある意味で壮大な取り組みだと思っているので、なんとか軌道に乗ってほしいし、今後もそのためのお力添えはできるだけしていきたいですね。
 

 
(2025年12月取材)
取材・文:北原美那