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2026.04.03

【レポート】EPAD ×「君の知らない名作僕が教えるから 僕の知らない名作君が教えて」

2026年1月23日、新宿芸能花伝舎A4で「舞台映像の現在地点―EPADシンポジウム2025―」が開催された。
人気演劇トークライブ「君の知らない名作僕が教えるから 僕の知らない名作君が教えて」との特別WEB番組、2025年度の事業報告、シンポジウムで構成された本イベント。
当日は現地観覧とYouTubeでのオンライン配信で、EPADの歩み、現在地、そして未来への展望が届けられた。
この記事では、「EPAD ×「君の知らない名作僕が教えるから 僕の知らない名作君が教えて」」についてレポートする。
 

 
「君の知らない名作僕が教えるから 僕の知らない名作君が教えて」は、MC森下亮、実況小林義典にゲストを加え、その年の演劇公演を振り返りつつ印象的だった作品などについて語り合う、年末恒例の人気トークイベント。
今回行なわれたのは、この〝知ら知ら〟とEPADがコラボレーションした特別WEB番組。今回はEPAD作品データベースに収蔵された約4400作品の中から、森下とゲストが作品をセレクトし、自由に語り合った。このトークはYouTubeで生配信され、コメントや、ハッシュタグをつけてつぶやくことも歓迎された。
 
俳優であり、現在活動休止中のクロムモリブデン劇団員でもあるMCの森下は、〝知ら知ら〟を始めた経緯について「コロナ禍で中止や短期間で終わってしまった公演が多く、なんとか救えないかと思って」と語り、同じくコロナ禍がきっかけでスタートしたEPADと思いを同じくするところがあり、今回のコラボレーションに至ったことを伝えた。
 

森下亮

 
今回のゲストは那須佐代子(シアター風姿花伝支配人)、笠木 泉(スヌーヌー)、尾﨑優人(優しい劇団 主宰)。
 
はじめに、ゲストと舞台公演映像との関わりについて語られる。俳優であり、シアター風姿花伝の支配人でもある那須は、東京育ちで生の観劇に親しんできたというが、コロナ禍にともない、劇場で配信を行ったり、自身も配信で公演を観たりするなど、映像へのハードルが下がったと語る。
俳優、劇作家、演出家として活躍する笠木。舞台公演映像との関わりを問われ、学生時代、NHKの番組「芸術劇場」を録画して何度も見た、と思い出を挙げた。今企画のためにEPAD作品データベースを眺めていた際、過去の出演作品たちを見つけ、「これまでの人生がよみがえってきた」と、創り手としての記憶も想起されたと語った。
ゲストの中で最年少、優しい劇団主宰の尾﨑は名古屋在住。生の公演を観る機会は少なかったが、SNSなどで情報収集し、学生の頃から演劇DVDを多く収集。配信や放送なども駆使し、映像で数多くの作品を見てきたと語る。
 
ゲストの話を受け森下も、「VHSを何度も見ると、どんどん画質が悪くなり、伸びてしまう」と〝あるある〟を語りつつ、今回の打ち合わせの際も「映像を観ることで、自分の思い出が蘇ってきた」と語った。
 
そんな3名とMCの森下が、EPAD作品データベースの中から作品を選び思い出を語っていく。
一巡目で尾﨑が挙げたのは毛皮族『小さな恋のエロジー』。尾﨑にとって、ずっと見たかったが、DVDも絶版で手に入らない作品だったという。毛皮族所属俳優の町田マリーと知り合ったことでやっと観ることができた、と、作品を観るまでの苦労と思い入れを語り、念願かなって観ることができた作品の劇中の演出に触れながら、その魅力を解説した。
 
笠木が「いろいろ考えたんですが、正直に出します」と意を決して挙げたのは劇団 夢の遊眠社第22回『小指の思い出』。リアルタイムの世代ではないため生では観ておらず、高校生のときに当時VHSで見たといい、「こんなにおもしろい人たちがいるのか、と思って、テープがすり切れるまで見た」と語る。当時情報源としていた雑誌「ぴあ」や、書店でありながらVHSが充実した池袋リブロにも触れながら、「野田秀樹さんの作品は今でも人気だが、若い時代に作った舞台も見てもらえたらうれしい」と、時代を越える魅力を持つ作品を推薦した。
 
那須は、自分が芝居を始めた頃に実際に観た作品として、こまつ座『きらめく星座 ―浅草オデオン堂物語― (1987 ver)』を挙げた。現在でも再演が続く作品だが、那須が観たのは井上ひさし演出の初演。「学生演劇をやっていた自分にとって、小笠原正一役の橋本功さんをはじめプロのお芝居に初めて触れて、衝撃を受けた」と、観劇当時の座席の位置まで鮮明な記憶を語った。
 

那須佐代子(シアター風姿花伝支配人)

 
森下はEPAD作品データベースについて、「SNSなどでは自分が観たい芝居の情報を取りに行くことが多いが、データベースのランダム検索を使うとたまたま見たものに当たることがあるのがおもしろい。「ぴあ」をめくっていた頃の感覚を思い出す」と語る。
 
そんな森下が挙げたのはFUKAIPRODUCE羽衣『スモールアニマルキッスキッス』。2024年に惜しまれつつ解散した劇団への敬愛を語り、データベースに掲載された視聴方法にも触れ、「この先も観ることができるのがうれしい」と喜んだ。
EPAD作品データベースには、各作品情報に加え、視聴可能作品については、早稲田大学演劇博物館や各オンデマンド配信サービスなどの視聴方法が掲載されている。
もう観ることのできない作品への思い入れや、作品映像にたどり着くまでの苦労を語るゲストたちや森下は、視聴方法の多様さに触れて、口々に驚きの声をあげた。
 
トークは続いて、データベースのなかから実際に観劇した作品について語るターンに。
尾﨑が「〝唐十郎チルドレン〟として外せない」として挙げたのは唐組『さすらいのジェニー』。コロナ禍まっただなかの2020年、初演から数十年ぶりに上演された今作は、初代テントを用いたセット。尾﨑が観劇したのは大雨の日で、作品のみならず、過酷だった観劇体験の思い出も合わせて語られた。
 

尾﨑優人(優しい劇団 主宰)

 
笠木はニブロールの『see/saw』を挙げる。銀行の跡地であるヨコハマ創造都市センター(現BankPark YOKOHAMA)で行なわれたパフォーマンス。笠木は「生で見て涙を流しながら、この美しさをお客様とダンサーの方と共有した記憶がある」と、言葉ではない直接的な衝動を感じたことを語り、舞台芸術としてのダンスの魅力を言葉にした。
 

笠木 泉(スヌーヌー)

 
「データベースを見ていたら記憶が蘇った」と那須が挙げたのが、1994年の銀座セゾン劇場で上演された『不知火検校』。「日本の現代演劇ポスターデジタル化プロジェクト2023」によりデータベースには当時のポスタービジュアルがアーカイブされている。勝新太郎主演・演出作品で、「こんなに自由にやっているお芝居は見たことがない」という、生の公演ならではを感じさせる観劇当時の強い印象を語った。
 
森下が挙げたのはナイロン100℃『カラフルメリィでオハヨ』。高校時代、大阪で演劇をしていた森下は、当時活躍していたケラリーノ・サンドロヴィッチの作品を未見ながら、図書館で戯曲を見つけ、仲間を誘って自分たちで本作を上演。その後に上演を観たといい、「KERAさんの真骨頂」と、思い出深い名作について語った。
 
トークはこの後も、ゲストや森下、さらにオンラインのアンケート回答から挙がった作品について、内容や出演者、劇場、観劇体験など、様々な角度から作品の記憶が語られていった。
 
今回の企画を通じてEPADのデータベースに触れてみたゲストたち。
那須は「こんなに作品があるとは知らなかった。現在でも、早稲田の演劇博物館で見られるものやYouTubeに上がっているものがこんなにたくさんあり、ぜひ活用させていただきたい」と語る。
笠木は「アーカイブの約4000タイトルを見て、自分がいかに見てないかと思ったし、もっと見たい、これも見たかった、というのがどんどん出てきてワクワクする時間だった」と興奮を共有した。
尾﨑は「逆に今までデータとして見ていたものが、生で見ていた先輩方の血肉を踏まえて聞けたのが面白かった」と、時間を超えた思い入れや体験を聞けた今回の機会を振り返り、「データベース収蔵作品の数だけ思い出があると思うと、どんどん聞きたくなる」と第二弾を熱望した。
 
現地でもオンラインでも名作の記憶が飛び交い、盛況に終わった今回の特別WEB番組。
創り手たちが集まり、戯曲や演出、俳優やスタッフや劇場など、演劇を構成する様々な角度から、熱を込めて作品が語り直されていった。今もアクセスできる名作だけでなく、もう観ることのできない公演や解散した劇団など、かつて共有した時間に対する感情のこもった記憶が引き出され、重なっていくことも、アーカイブをめぐる重要な営みであることを示したコラボレーションとなった。
 
全編はアーカイブでも観ることができる。ここに挙げた以外にも、多くの作品の記憶が楽しく語られたトーク、ぜひ動画で確認してほしい。
*アーカイブはこちら
 

 

 

 
 
取材・文:北原美那
写真:サギサカユウマ