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2026.04.09

【レポート】舞台映像の現在地点―EPADシンポジウム2025―

2026年1月23日、芸能花伝舎A4で「舞台映像の現在地点―EPADシンポジウム2025―」が開催された。
人気演劇トークライブ「君の知らない名作僕が教えるから 僕の知らない名作君が教えて」との特別WEB番組、2025年度の事業報告、シンポジウムで構成された本イベント。
当日は現地観覧とYouTubeでのオンライン配信で、EPADの歩み、現在地、そして未来への展望が届けられた。
この記事では、事業報告とシンポジウムについてレポートする。
 

 
事業報告はEPAD代表理事の福井健策とEPAD事務局長の坂田厚子が行なった。
2025年度、文化庁の令和6年度補正予算文化芸術振興費補助金人材育成・収益化に向けた舞台芸術デジタルアーカイブ化推進支援事業に採択されたEPAD。
収益力や対外発信の強化を支援し、100年先の未来へ貴重な資産を届けるため、2025年度に推進した下記6つの事業の進捗を報告した。
 
①約800作品の収集 140作品以上の権利処理サポート
②高画質収録(8K+マルチ録音)のサポート
③各地劇場での大スクリーン上映
④多言語字幕、ユニバーサル対応推進
⑤教育活用の促進
⑥相互連携・調査研究 舞台芸術アーキビスト養成
 
収集に関して、公募にて456作品を新規収蔵。さらに様々な統括団体からの協力を得て、約800作品を収蔵。これにより収蔵作品は累計約4600となった。収集された作品は早稲田演劇博物館へ順次収蔵される。
JATDT(舞台美術作品データベース)では劇場空間のアーカイブの新規追加やオーラルヒストリーの拡充等が、戯曲デジタルアーカイブでは新規107作品が公開となり、戯曲・舞台美術資料の収集も進んだ。
また、再生の危機に瀕している VHSのデジタイズ支援や、140作品以上の権利処理サポートを行ない、配信や上映の可能化につなげた。
さらに8K+マルチ録音等による高品質収録やドキュメンタリー、45作品の収録サポートをおこなった。
 
上映の実績として、全国巡回上映「舞台映像上映 Reライブシアター」、PARCO劇場での8K上映会「EPAD Re LIVE THEATER in PARCO~時を越える舞台映像の世界~」、舞台収録の知見共有・試写会「舞台公演映像見本市」といった各種上映会を紹介した。
 
また、国際交流基金のYouTubeチャンネル「STAGE BEYOND BORDERS」で配信する10作品に加えて、計25作品に多言語字幕を付与。AIを活用し字幕制作の低コスト化にも取り組んでいる。さらにユニバーサル事業として5作品に情報保障を付して「THEATRE for ALL」で配信。こうした、多様な観客に舞台芸術を届けるための取り組みについても報告。
 
さらに収集した映像を次世代につなげるべく、教育活用の一環として、公演映像を教育機関で活用する「舞台芸術映像オンライン視聴トライアル」*を31校で実施。新たに小中学校向け教育パッケージの開発も進めている。
*26年4月現在「教育機関向け 舞台芸術映像配信サービス みるステ」として無料トライアルを実施中です
 
そして舞台芸術アーカイブの担い手を育てるべく、オンラインでの連続講座「舞台芸術アーカイブ講座2025」を立ち上げた。
 
福井は多様な協力団体との連携が見られた作品収集について、「今期は横に幅を広げていこうと意識した」と語り、VHSなどの記録メディア、年長者の語るオーラルヒストリーといった、時間的猶予が迫る舞台芸術アーカイブのサポートの重要性について言及した。
また、多岐にわたる事業を進めてきたスタッフの努力に触れながら、国による大規模な支援が終了した後も、自走化していくEPADの活動の継続、発展に必要なこととして、「100年後の世代、あるいは世界の人々、あるいは劇場に来れない人々に届けるためにも、ぜひEPADの事業に関心を持ち続けていただければ」と結んだ。
 

 

 
事業報告に続いて行なわれたのがシンポジウム「動き出した全国バーチャル舞台上映構想」。
小野賢志(文化庁参事官)、佐々木 敦(批評家)、岡室美奈子(早稲田大学教授/EPAD理事)、松浦茂之(三重県文化会館副館長/EPAD理事)が登壇、伊藤達哉(EPAD理事)が司会をつとめた。
 

 
はじめに松浦から、全国巡回上映会「舞台映像上映 Reライブシアター」について報告がされる。
大都市以外にも舞台芸術の観劇体験を届け、文化格差を解消すべく打ち立てられた上映会構想。数年間のトライアルを経て、2025年度より全国公立文化施設協会と協同し一般観客向けの上映会を開始。
2025年度は全国10会場で上映会が行なわれ、1983名を動員。そこで得たアンケート結果や各施設のニーズ、実際の上映会の様子などを紹介し、早くも動き出している次年度に向けた取り組みの進捗が報告された。
松浦は、今後マーケットが成立するための課題として、①いかに低予算型事業として成立させるか②幅広い観客を動員するために必要な上映作品の幅を広げる必要性③投影機材などの技術革新と低コスト化といった点を挙げた。
 
上映会について小野は、EPADの8K等身大上映会を観劇した際、定点のため舞台上のどこを見ても良い感覚を得たといい、「生の観劇と近い視点の自由さがあることに驚いた」とコメント。さらに、映像には演者だけでなく観客もいる空間が映されており、「終わった後に一緒に拍手したり、舞台の上にいる演者の方々だけではなく、観客の方とも共有できるのはものすごく新鮮だった」と時空を越えて作品が届く意義について実感をこめて語った。
 

 

 
続いては岡室による発表。「8K映像と闇」というテーマで、「生の舞台の代替物」ではない、舞台映像ならではの楽しみ方や魅力を提示した。
2025年に8K定点上映されたイキウメ『奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話』を軸に、劇中の重要な要素である“闇”の表象について分析。映像で観ている際の感覚の変化に触れながら、「機械の目が捉えた空間全体を俯瞰的に観る時、実は無意識的に見ていたものが可視化される」と、生の観劇体験とは異なる独自の体験が8K観劇にはあり、独自の鑑賞体験をもたらすものであることを指摘。「8K映像ならではの楽しみ方が普及していくと、もっと見てくださる方が増えるんじゃないか」と、新たな視点を提示した。
 

 
続いてコメントした佐々木は、「どちらかというと観客側の人として話をしたい」と冒頭の自己紹介で語りながら、舞台芸術の特徴として「現在形の芸術であり、他ジャンルと比した際、現在形ならではの良さと難しさを意識することが多い」ことを挙げた。自身の音楽レーベルHEADZから、ままごと『わが星』をはじめ演劇DVDを出した経験に触れ、「上演期間を逃すと実演を観ることができない舞台芸術は、記録とそぐわないとも言えるし、記録を求めているとも言える。映像記録という形でその作品に初めて触れることが可能になることに非常に意味がある」と舞台映像自体の持つ両義性と重要性を示す。
さらに佐々木は、授業で演劇映像を学生に見せる際、実際の劇場での定点視点との違いを意識するよう伝えているといい、「できるだけ現在形の上演に近づける形で、観ることができなかったひとたちに作品を届けることは、根本的にも、文化事業としても非常に意味と可能性がある」と、EPADが手掛ける8K定点収録・等身大上映の意義に対し見解を語った。
 

 

 
岡室や佐々木のコメントを受けた松浦は、公立文化施設での上映会の経験から、「公立文化施設は鑑賞だけでなく、学びや啓発の場でもある。映像で観るのは研究して観る感覚もあり、観劇後の観客たちとのクロストークでは、生の観劇より映像のほうが向いていると感じた」と語る。
 
岡室は、巻き戻しや早送りなど映像ならではの機能や、生の舞台同様に映像に没入することと現実に引き戻されて客観的になることの往還運動など、映像ならではの楽しみ方を挙げた。
 
2025年度に動き出した上映事業をベースに、舞台映像がもたらすものについて、様々な視点から意見が交わされたシンポジウム。
 
結びにおいて小野は、子供の芸術教育に関わる立場として、EPADの事業が「子供にとっての生の演劇の入り口になる」ことへの期待を語った。文化庁からの事業支援は一区切りとなり、自走化へ向かうEPADの今後にも触れながら、演劇というジャンルに対する魅力を伝える点でも大きな期待をしていると語り、「引き続き関わっていきたい」と意向を示した。
 
佐々木は、8K収録について、美術館や国立映画アーカイブといった芸術アーカイブにおける記録とその維持の重要性について語り、保存だけでなく「アーカイブが上映されることに意味がある」と、EPADの事業が維持されながら伸長していくことへ期待をこめた。
 
松浦は、上映会をはじめとした、全国で舞台芸術がより広まっていくための今後の課題について触れながら、国立劇場の舞台芸術の全国の公立文化施設へのオンライン配信など、日本の舞台芸術の未来を照らすために必要な提案をおこなった。
 
岡室は、8K映像をテーマにした今回の議論を通じて、舞台映像とは何かという、生の舞台とも映画とも異なる独自性についてあらためて触れ、「どんどん本物に近くなっていくが、それ自体をどうやって享受していくのか、もっと考えていきたい」と新しい視点を提示した。
 
アーカイブを通じて次代にバトンをつなぐべく、様々な事業を展開してきたEPAD。
自走化を目前に、その多様な実績を確認しながら、今後の様々な展開と可能性が感じられる事業報告・シンポジウムとなった。
 

 
取材・文:北原美那
写真:サギサカユウマ