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2022.12.14

8K収録の現場から——快快の場合

©️Kazuya Kato

EPADでは舞台芸術のデジタルアーカイブ化とその利活用を推進する事業の一環として、8KカメラやDolby Atmos®による高品質収録の補助を実施している。8Kでの映像収録にアーティストは何を思うのか。2022年度、公募により8K収録の費用補助対象に選ばれた快快『コーリングユー』の公演会場で撮影の指揮をとる加藤和也(快快)に話を聞いた。(取材・文:山﨑健太)

 

EPADのメリット

——今回、なぜ8Kでの撮影を希望したんでしょうか。

8Kでの収録はコストがかかりますし、再生機器自体も8Kに対応しているものはあまりない。データ量も大きくなってしまうのでその扱いも大変になります。そうすると、普通に活動していては8Kで撮ろうという意識は生まれてこないんですよね。それで、今回はいい機会だと思ってお願いしたいと思いました。
今回はEPADさんの事業ということで、8Kの映像が残ること自体もですけど、権利処理のサポートをしていただけるのがありがたいです。自分たちで記録映像を撮ったときに、著作権が処理しきれなくて結局表に出せない、ということもあったので。今回、EPADさんにお願いすることを考えたときに、より作品映像を世に出しやすくなるだろうということは最初から念頭にありました。つくっている過程でも「これはありなんですか」とか「駄目だったらこういう形がありますよ」みたいなやりとりをして、著作権関係のことを整理しながら作品をつそくれたので、そういう面でもかなり助かっています。

 

8K映像に期待すること

——8Kで収録された映像はこれまでの記録映像とは何が違ってくると思いますか。

今まではやっぱり劇場に来ないと見えない部分があったり、わからないことも多かったと思うんです。でも、8Kの映像はより細部が鮮明に見えるので、劇場で見るのに近い視覚的要素を得られるんじゃないかという期待があります。8K用のプロジェクターを用意すれば劇場と同じサイズでプロジェクションして見せるということもできるかもしれない。今まで舞台の記録映像というのは複数台のカメラを使って編集したものが多かった。でも8Kなら引きのカメラ1台だけで撮った映像で、劇場で見るみたいなかたちでも成立する可能性はあるんじゃないかと思います。
しかも、それが映像だから何度も観られる。舞台を見るとき、人間の目というのは演者だったり、メインの部分しか追わなかったりしますよね。でも8Kで全体を鮮明に撮っておけば、繰り返し見たときに全然違うところをじっくり見ることもできる。そういう、生で見るのとは違った楽しみも生まれてくると思います。

 

未来を見据えた8K

——今後は8K以上での収録がスタンダードになっていくと思われますか。

8Kは数年したらメジャーになる可能性は全然あると思います。でも、一般的な撮影ということでいうとこれ以上のスペックというのは今のところ想像つかないですね。というのも、映像ってサイズを表すKの前の数字が2倍になると面積としては2×2なのでデータ量は大体4倍ぐらいになるんです。公演1本を8Kで撮影するとカメラ1台でもデータが1TBを超えるので、16Kになると4倍で5TBぐらい。ハードディスクの容量も増えてきてはいるんですけど、映像データの伸びに対してやっぱりちょっと緩やかだし、パソコンはさらにスペック的に難しいということがあるので……。ただ、いずれにせよ将来的な映像資産としては、今の時点ではちょっと先取りしてるくらいのスペックの方がいいんじゃないかとは思います。

 

高品質での撮影が可能なカメラの登場や大容量データの扱いなど、舞台芸術のデジタルアーカイブ化の推進はテクノロジーの発展と切っても切れない関係にあり、何がベストであるかは時代の変遷とともに移り変わっていくものだ。EPADの取り組みは舞台芸術のデジタルアーカイブ化を推進しつつ、同時にその成果を検証し、よりベターな道を探るものでもある。デジタルアーカイブの利活用についても同様だ。EPADでは8Kカメラ1台で収録した舞台芸術映像の上映会を各地で実施し、それが観客にどう受け取られるかの検証も行なっている。デジタルアーカイブの可能性の追求は続く。