フード・テキスト・写真:土谷朋子(citron works)/ 撮影協力:UTSUWA
幕が開けば、変わらず始まる軽口叩き合う女たちの馬鹿馬鹿しいパーティー。
彼女たちは各々思うことはたくさんあるのにそれをどうしてだか適正な音量で伝え合うことができない。
誰しもどうにもこうにも決定的に不器用で、ムカつく、許せない、殺してやる、勝った負けたと罵り合いながら、大音量のそれらがそれでいてどこかライトに響くように無意識にすんでのところで間違う。
まるで斉藤由貴の「青空のかけら」のように悲しいステップを踏んでしまうのである。
そんなあの時代の空気が南のあの島には流れている。
日本からのお土産の八つ橋、きっと珍しいであろう肉桂の風味の菓子をもしかしたら島の人々は面白がるだろうか。
一時リゾート地として盛り上がった南の島に日本の雑誌が取材に来てリゾート特集に掲載されるようなことがあったら、
おすすめスイーツの一つとしてなぜか島で人気のあるジャパンの菓子、八つ橋の載ったパフェがあるかもしれない---
大きなパフェグラスに入ったカラフルでいろんな味のゼリーは様々な時間の海の色を表し、
そこにキンキンに冷えた氷のように半透明とミルクの寒天を浮かべて。
ココナッツミルクとホイップが泡立つ水面に漂う色とりどりの筋状のゼリーは、まるで島から客船が出港する時に投げられたであろう紙テープのよう。
上部には日本土産の八つ橋とソフトクリームにきな粉でできた砂浜を。
フルーツの茂みとパラソルの下で涼みながらやがてビーチに打ち上げられるテープを眺めるのはきっと島に残った側の人間で、
そしてその足元にうろつくのは一匹のカニバビロン。
そんなパフェを日差しの眩しさに目を細めながら
広げたパラソルの下で食べたい。
作品名:ナイロン100℃『フローズン・ビーチ』
脚本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
上演年:1998
劇場:紀伊國屋ホール
受賞歴:第43回岸田國士戯曲賞
提供:シリーウォーク
あらすじ:
始まりは1987年、カリブ海と大西洋の間に浮かぶ南の孤島、その浜辺に建つ一軒家。
リゾート地の別荘で平穏な夏を過ごすはずだった女たちに襲いくる憎しみと許し、拒絶と理解、偶然と必然。
女性4人だけの出演者で8年ごと16年間に渡り描かれる数奇な運命の物語は
馬鹿馬鹿しさを重ね終いにはどこか寂しさすら漂うサスペンス・コメディの頂点。
ケラリーノ・サンドロヴィッチとナイロン100℃がその名を一躍世に知らしめた今作は第43回岸田國士戯曲賞受賞作品となった。