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2023.01.24

天王洲電市〜記録は感情を通電させる〜 上映会&オンライントーク

舞台芸術映像のアーカイブのさらなる可能性を探求するイベント「天王洲電市〜記録は感情を通電させる〜」が2023年1月20日(金)、21日(土)の2日間にわたって開催された。イベントはEPAD事業を通して収集した舞台芸術映像の上映会とさまざまな専門家が登壇するオンライントークから構成されており、トークについてはアーカイブも残されている。このレポートではトークの内容も一部紹介するのでそれぞれの興味に応じてぜひ視聴していただきたい。舞台芸術やそのアーカイブについて考えるための多様な視点が得られるはずだ。

(取材・文:山﨑健太 写真:菊池友理)

▼上映会

東京・天王洲の寺田倉庫「E
HALL」で開催された上映会では7本の映像が上映された。なかでもマームとジプシー『cocoon』、SPAC『ペール・ギュント』、スターダンサーズ・バレエ団『くるみ割り人形』の3本は8K+Dolby Atmos®️という高画質高音質で収録されたもの。303インチの大画面と大音量での上映はそのポテンシャルを体感する絶好の機会となったのではないだろうか。上映会では他にもKAATキッズプログラム『さいごの1つ前』、能楽協会『能 羽衣』沖縄ガンガラーの谷公演(洞窟能)、ドキュメンタリー『コロナ、地方都市、芸術祭:豊岡演劇祭2021-22(ラフカット短縮版)』を上映。最先端の現代演劇から子供向け作品、バレエ、古典芸能、そして演劇祭のドキュメンタリーまで、EPADが扱う舞台芸術の幅広さを改めて示すラインナップとなった。さらに加えて唐十郎の状況劇場が1985年に上演した『ジャガーの眼』の貴重な映像も上映され、多くの観客が足を運んだ。

▼トーク①:EPADの活動とビジョン

1本目のトークは「EPADの活動とビジョン」。2022年度のEPADの活動報告からはじまるトークはタイトルの通りEPAD入門編ともいえる内容だ。EPADが手がけるのは既存の映像の収集と権利処理だけではない。つくり手に寄り添い関係者と意見を交わしながら、よりよいデジタルアーカイブのあり方を模索しその実現をサポートするのがEPADの活動なのだ。今回のトークではこれまでの3年間の活動を振り返りつつ、その成果や登壇者それぞれが活動のなかで考えてきたこと、今後への期待などが語られた。収集と活用のサイクルや舞台芸術のエコシステムを支えるものとしてのアーカイブといった考え方はつくり手も頭の片隅に置いておくべきものだろう。

登壇者は福井健策(骨董通り法律事務所/EPAD実行委員会/緊急事態舞台芸術ネットワーク)、吉見俊哉(デジタルアーカイブ学会/東京大学)、 横堀ふみ(NPO法人 DANCE BOX)、伊藤達哉(EPAD実行委員会/緊急事態舞台芸術ネットワーク/ゴーチ・ブラザーズ)、司会は徳永京子(演劇ジャーナリスト)。

▼トーク②:舞台芸術映像をめぐるEPAD権利処理事例

舞台芸術映像の配信のための権利処理において何が問題となるのか。苦労話も交えながら具体的な事例を紹介する。たとえば、もともとミュージカルのために書かれた曲は一般的な楽曲と比べて配信のための許諾が取りづらいのだという。ミュージカルにかぎらず特定の物語やイメージと強く結びつくかたちで製作された著作物は、別の物語やイメージと結びつけて使用することに対して著作権者が難色を示すことが多いらしい。などなど、実践的な内容が面白くわかりやすく語られている。映像の配信を視野に入れているアーティストや制作者は必見のトーク。登壇者は田島佑規(骨董通り法律事務所)、城田晴栄(株式会社ループホール)、近藤つぐみ(EPADスタッフ)。

▼トーク③:時代性とアーカイブとの緊張関係

マームとジプシーの藤田貴大と行動学者の細馬宏通が実作者、研究者それぞれの立場から舞台芸術を映像としてアーカイブすることについて語る(司会は編集者の山本充)。特定の場所でそこにいる観客に向けて言葉が発せられる劇場での上演と、いつどこで誰にどのようにして言葉が届くかがわからない配信とでは作り手としての意識が前提から変わってくるのではないか、同じ作品の上演でも日によって、たとえばその朝に観たニュースによっても俳優の言葉の発し方や観客の言葉の受け取り方は変わってくるはずで、だからこそ舞台芸術映像を見る場合はそれがいつの上演を収録したものであるのかは重要な情報なのではないかなど、論点は多岐にわたった。作品を映像として見せることをよしとしてこなかった藤田がコロナ禍を経てどう考えを変えたのかも興味深い。

▼トーク④:アーカイブの利活用について〜公立施設の視点から〜

公立劇場に携わる宮城聰(SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督)、長塚圭史(KAAT神奈川芸術劇場芸術監督/阿佐ヶ谷スパイダース)、松浦茂之(三重県文化会館)がこれまでの実践や今後のアーカイブの利活用について現状を共有し意見を交わす(司会はEPAD実行委員会の三好佐智子)。宮城が体験した海外での舞台芸術の映像収録の様子やアーカイブ事情、長塚が阿佐ヶ谷スパイダースのイベントとして行なった上映会の様子などについても語られる。

▼トーク⑤:アーカイブ利用の可能性とは〜状況劇場の秘蔵映像を巡って〜

E HALLで上映された状況劇場『ジャガーの眼』をめぐるトーク。『ジャガーの眼』の映像は作品の上演だけでなく会場周辺の様子なども映し出し、そのことによって当時の空気感も含めてアーカイブすることに成功している。約40年前の公演の様子を観た観客は何を思うのか。『ジャガーの眼』の角膜移植のモチーフは映像のアーカイブというテーマとも響きあう。久保井研(唐組)、カニエ・ナハ(詩人)、久保仁志(慶應義塾大学アート・センター)が語り合う(司会は三好)。

▼トーク⑥:アーカイブ (ゲーム・アニメ・舞台芸術)の向かう未来

アーカイブの実践は様々なジャンルで行なわれている。ゲームとアニメのアーカイブ、そして2.5次元ミュージカルの海外での受容と配信の現状を踏まえ、ジャンルごとに異なる困難や共通の課題、そして連携の可能性について語るトーク。赤松健(漫画家/参議院議員)、松田誠(ネルケプランニングファウンダー )、植野淳子(日本のアニメ総合データベース「アニメ大全」プロデューサー)が登壇し、福井が司会を務めた。