Report
2024.01.19

新しい”演劇図書館”を全国へーー鑑賞ブースin東京・三重レポート

舞台作品映像の収集とアーカイブ化・新規映像収録などの事業を行ってきたEPADは、舞台映像の利活用の一つとして本年度から「鑑賞ブース」事業をスタートさせた。
「観たい時に、観たい舞台作品の映像が観られる”演劇図書館”」として、東京都・三重県にて期間限定で設置され、注目を集めた鑑賞ブースについてレポートする。
(取材・文:北原美那)
 

撮影:森井一鷹

 
東京・三重ともに、鑑賞ブースは事前予約制・無料。1日3時間✕3枠✕2席が用意された。パーテーションで区切られた半個室ブースには、8Kモニター1台とヘッドホンが設置されている。各ブースにつき東京では1名、三重では最大2名で着席し、鑑賞ブース用にセレクトされた作品のなかから好きなものを選び、鑑賞することができる。
 
8Kモニターは75インチと60インチが用意され、視界いっぱいに映像を楽しめる。家庭用の2Kハイビジョンの16倍の画素数を持つ8Kモニターは、上映会などでのスクリーン投影より解像度が高い。画質は再生する作品のコンディションにもよるが、8K定点撮影映像であれば、舞台奥の人物の表情や小道具までくっきり見える。その高い没入感について、福井健策EPAD代表理事は「劇場での観劇と同じように、だんだん観ているうちに人物の表情などが勝手にクローズアップされていく」と語った。
 
ブース内の映像操作はタブレットで行う。アプリはNHKが開発した独自のものを用いている。作品のセレクトと映像の再生・停止などの操作を一画面で行うことができ、初見でも操作しやすい仕様となっている。東京・三重でのそれぞれのセレクト作品に対応しカスタマイズされ、作品の画質が8K・4K・ハイビジョン、いずれであってもそのまま使用できる。
 
設営の時間も空間も多くはかからないミニマムな作りだが、ブース内は鑑賞に集中できる空間となっている。
 

 
東京では、10月11日〜22日に行われた東京芸術劇場シアターウエストでの「EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo〜時を越える舞台映像の世界〜」の期間中、劇場での上映会と並行して、会場ロビーにて鑑賞ブースが設置された。
 
ラインナップは、宮城聰氏、岡室美奈子氏、徳永京子氏、横堀ふみ氏の推薦作品とEPADセレクション合計22作品。ままごと「わが星」(2015)やイキウメ「散歩する侵略者」(2017)など近年の話題作はもちろん、こどもの城 青山劇場・青山円形劇場「転校生」(1994)や劇団 夢の遊眠社「野獣降臨」(1987)など、映像資料として貴重な作品も選ぶことができた。
(作品リストはこちら
 
ソフト化していない作品も鑑賞できるとあって、ブースの予約開始から一日で全予約枠が満席になった。2席設けられたブースの初日初回の枠では、平田オリザ演出版「転校生」と飴屋法水演出版「転校生」が並んで観られていたという、演劇ファンとしてはたまらない偶然も起きたという。
 

撮影:サギサカユウマ

 

撮影:サギサカユウマ

 
そして三重県では、10月26日〜12月17日まで三重県総合文化センター「まなびぃ場」にて鑑賞ブースが設置された。
こちらのラインナップは、若手作家の登竜門として知られる岸田戯曲賞受賞作品を中心に、三重県文化会館副館長兼事業課長の松浦茂之氏がセレクトした現代演劇の注目作9作から選んで観ることができる。
(作品リストはこちら
 
2ヶ月間設置し、2席合わせた稼働率は50%を超えた結果を、松浦氏は想像以上の数字だと語った。リピーターも多く、期間が限られていたこともあってか、作品を観に県外からも訪れる利用客もいた。地元メディアからの取材もあり、「地方で無料で現代演劇が観られる機会はやはりないと気付いた」と、地方での観劇需要を感じたという。
 

撮影:森井一鷹

 

撮影:森井一鷹

 
三重での鑑賞ブースについて松浦氏がコメントを寄せた。
 

地方に住んでいるとお財布事情や時間の都合で、観たくても観られなかった舞台は非常に多い。そういった観逃した名作を配信のパソコン視聴ではなく、8K高画質の大画面モニターで視聴できたら……、今回三重県総合文化センターに設置した「演劇図書館」はそうした夢をかなえてくれるテストでした。結果、当初予想の2倍を上回る稼働率を記録し、知り合いの演劇ファンからは「映像とはいえ十分に演劇として楽しめた」「常設してほしい」「作品を変えて続けてほしい」「生の演劇が観たくなった」と多くの嬉しく熱いメッセージを頂戴しました。歴史的な作品や最近の話題作が高画質モニターや上映会で気軽に触れられる、演劇がもっと身近になり、それが生の実演芸術を観る入口になる、なにかそうした明るい未来がぼんやりとみえる画期的なテストでした。
 
松浦茂之氏(三重県文化会館副館長兼事業課長)

 

鑑賞ブースの今後について、上映会を組み合わせたイベントの実施や、地域での教育機関や福祉施設、図書館など地域との連携などの展開が期待されている。
京都での関係者向け上映会では、鑑賞ブース見本を設置し、モニターのレンタル費用など参考価格も資料として提示するなど、各地の公共ホールを中心に普及にむけて施策を行った。
 
臨場感ある8K映像で収録された近年の話題作から、テレビ映像の録画でしか残っていない貴重な幻の歴史的名作まで。EPADの収蔵する舞台映像が、まさに図書館的に利用され、新たな出会いにつながっていくことに今後も期待したい。