【意見交換会レポート】EPAD Re LIVE THEATER in Kyoto~時を越える舞台映像の世界~
2023年12月20日(水)21日(木)に京都で行われた舞台関係者向けイベント「EPAD Re LIVE THEATER in Kyoto~時を越える舞台映像の世界~」。
そのプログラムのひとつ、意見交換会「公立劇場で舞台映像上映会を実施することについて」が21日に京都市勧業館・みやこめっせにて行われた。
全国各地での上映会の実施にむけ充実した議論が展開された模様をレポートする。
(取材・文:北原美那/撮影:吉見 崚)
EPADでは今年度の事業で映像上映会を複数回行い、個人が映像を鑑賞できる鑑賞ブースを東京・三重で実施。こうした映像事業を全国に普及すべく、公立文化施設の事業担当者を中心に関係者が集まり意見交換会が行われた。
意見交換会は10のテーブルに分かれ、各卓にファシリテーターが在席。グループのなかで上映会が実施できそうな劇場をひとつ決め、実現化に向けて話し合う形式。
司会の高萩宏(EPAD代表理事)が、「実現化に向けて可能性を探ってもらいながら、文化ホール同士の新しい繋がりにも期待したい」と呼びかけ、各テーブルでの議論が始まった。
前日のトークセッション2で提示された予算付きスキームをもとに、対象となる公共ホールの具体的な設備や予算規模、スケジュールを確認しながら上映会の実現に向けて検討が行われていく。
各テーブルには公共ホール担当者以外にも、舞台監督や法律家、ユニバーサル上映会を行うTHEATRE for ALLのメンバーなど様々な専門家も参加し、音響や映像、許諾などについての具体的な情報交換も各所で行われた。
実際の公演と組み合わせた映像上映や、作品背景の解説や公演団体を招いたイベントも合わせて行うなど、企画性を持たせるためのアイデアを話し合うテーブルも多くあった。
また、この2日間で上映された定点映像・多カメラ編集映像の鑑賞体験をもとに、どちらが観客に受け入れられやすいか、作品選びの重要性についての話し合いも見られた。
そして限られた予算で音響や映像のクオリティをどう担保するかの検討や、補助金の獲得に向けた企画の組み立て、映画上映と比較した価格付けなど、金額面に関しても多くのテーブルで議題にのぼった。
1時間半を過ぎ、各テーブルの議論について中間発表が行われた後、当初予定の2時間から延長して意見交換会が続けられることが参加者に伝えられた。予定されていた高萩理事のトークセッションの時間を使い、より議論を深め、各所での上映会の実現に向けて話し合いが進められる。
3時間弱に延長された議論の時間も終わりが近づき、最後に各テーブルのファシリテーターから議題が報告された。
最終発表でのコメントから、複数テーブルで挙がった論点とコメントの一部を紹介する。
関係団体との連携
上映会をスムーズにするため「全国都道府県でのフラッグシップシアター」を提案した松浦茂之氏(三重県文化会館)テーブル。4Kプロジェクターとモニター、8K収録可能カメラを常備するとともに、上映会のセッティングが可能な映像技師、音響技師、舞台監督を、県の劇場から各自治体公共ホールでの上映会に派遣するイメージを示した。
続けて報告を行った佐藤奈々絵氏(熊本県立劇場)は、こうした連携の提案は県は喜ぶのでは、とコメント。また、このテーブルでは上映会、鑑賞ブースともに具体的に検討が進み、来年度のテスト上映と再来年度の実装、という具体的なスケジュール感も話し合ったことを報告した。
龍 亜希氏(北九州芸術劇場)は、「県によって公共ホール間の交流の有無が異なる」と、テーブルでの議論を報告。地域のホールが連携し上映会の作品などで連続性や企画性を持たせることで、新たな客層の獲得と満足度向上につながるのでは、とコメントした。
サザンクス筑後での上映を検討した滝口 健氏(世田谷パブリックシアター)のテーブルでは、「上映会の実現に向け、劇場の担当者が実際に体験してみることが必要ではないか」と、上映会の準備の現場見学や技術研修会など、EPADや公文協(公益社団法人全国公立文化施設協会)からのサポートを提案した。
バリアフリー・教育
唐津絵理氏(愛知県芸術劇場)は、「都市部で公演が多く行われているなかで映像で集客を作るためには、バリアフリーの活用が鍵になるのではないか」と、映像ならではのバリアフリーとの親和性という利点を挙げた。
渡辺 弘氏(岡山芸術創造劇場ハレノワ)のテーブルでは教育、育成に特化した未来への投資プロジェクトを検討。生の鑑賞体験を映像にすることで教育現場の側もコスト削減が可能になるとメリットを提示した。
能登演劇堂での上映会を検討した熊井一記氏(神戸文化ホール)のテーブルでは、福祉との連携についても検討。「高齢で移動しにくいことを理由に離れていくお客さんを劇場につなぎとめるために、こちらから各所に出向くときに持ち運べる映像コンテンツは有効」と、地域に根ざした中小規模の劇場での映像コンテンツの可能性を探った。
上映パッケージ
岸 正人氏(公益社団法人全国公立文化施設協会)は、国立映画アーカイブの優秀映画鑑賞推進事業を例に挙げ、テーマを設けた上映作品のパッケージがあれば、公共ホール側も選びやすく、企画性も高まると指摘。
矢作勝義氏(穂の国とよはし芸術劇場PLAT)は、作品内容でのパッケージ以外にも、劇場のサイズ毎のパッケージなど、上映会を行う側のハードウェアに応じたラインナップも用意することで、より実施のためのハードルが下がるのでは、と語った。
文化フォーラム春日井での上映会を検討した萩原宏紀氏(いわき芸術文化交流館アリオス)のテーブルには俳優も議論に参加。映像に対するカンパニーの意見も聞き、「なるべく気軽に上演できるパッケージを作りたいが、作品のクオリティをどこまで維持するか」と、各方面が納得する折衝点も課題になると述べた。
白熱した議論の終わりに高萩理事は、コロナ禍を経て舞台芸術の過去映像そしてライブの8K映像などのデジタル・アーカイブ化が進んできたことを評価し、「それらの上映会を機に日本の舞台芸術がもっと盛んになり、舞台芸術を目指す若い人たちが夢を失わないようにしていきたい」と意義を語り、「映像の活用に関して、こんな形ならできる、というアイデアがあれば共有していただけたら」と参加者に呼びかけた。