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2024.08.14

【レポート前編】EPAD Re LIVE THEATER in Setagaya 〜時を越える舞台映像の世界〜

2024年7月12日(金)〜14日(日)、「EPAD Re LIVE THEATER in Setagaya 〜時を越える舞台映像の世界〜」が世田谷パブリックシアターで行われた。
 
2020年から舞台公演映像等の資料の収集・デジタルアーカイブ化やそれらの利活⽤のサポートを⾏っているEPAD。2023年度からは、劇場での上映会に本格的に取り組んでいる。
今回のイベントでは、昨年10月に上演、8Kカメラで定点収録されたケムリ研究室no.3『眠くなっちゃった』を等身大で上映した。
前編ではその模様をレポートする。【後編はこちら
 
(取材・文・撮影:北原美那/撮影:サギサカユウマ)
 


 
3日間にわたり上映されたケムリ研究室no.3『眠くなっちゃった』。
 

  

 
ケラリーノ・サンドロヴィッチと緒川たまきのユニット「ケムリ研究室」第三弾の作品。世田谷パブリックシアターの舞台の間口いっぱいの500インチスクリーンで8K等身大上映された今作は、同劇場にて昨年10月に上演、収録されたもの。
 
極度の寒暖により環境が激変した近未来。人口は大幅に減少し、都市では気候をコントロールする巨大な冷暖房装置が稼働し、人々は中央管理局の監視下で生活している。
元サーカス団員の娼婦ノーラ(緒川たまき)を中心に、ノーラの住むアパートの大家一家や娼婦たち、芸術家とパトロン、管理局員ら、都市に暮らす様々な人物たちの悲喜こもごもが描かれていく。
 
画面には前方数列分の観客の頭が写っており、客席に座っている自分の視界と同期する感覚がある。画角としては1階後列席がもっとも収録に近い視界となるようだ。
 
高精細映像は、俳優たちの姿を立体的に、そこにいるかのような臨場感で見せていく。特に前半のサーカスの場面での、団長(音尾琢真)を中心に団員たちが思い思いの芸を見せるシーンの立体感、そこにいるような実在感に息を呑んだ。
 
本作演出の大きな特徴として、舞台上へのプロジェクション・マッピングが多く用いられていることが挙げられる。
冒頭での、舞台上の俳優とセット、舞台の上部まで投影されたクレジット入り映像が同居するシーンを筆頭に、劇中ではたびたび舞台の役者とセットに映像が重ねられる。
時には舞台の上下で、異なる場所での場面が瞬時に切り替わる演出もあった。
紗幕を用いたこの演出は、数十名の登場人物の織りなす物語をスムーズに伝えるとともに、目の前の空間が幾度も重ね書きされることで、観客を幻想的で叙情的な世界観のもとに連れて行く。
本上映では、さらにもう一層重なる形になるが、リアルとイマジネーションが交差する唯一無二の体験は、8Kの高精細映像でも十分に味わうことができた。
 
また8K高画質映像は、俳優たちの繊細な演技や存在感を確かに捉え映していた。
数十年に渡る様々な場面と人間模様が描かれる今作。
ノーラ役の緒川と、ノーラの指導観察員であり、彼女とともにマフィアと中央管理局の追跡から逃げるリュリュ役の北村有起哉をのぞき、キャストたちは複数の役を演じ、登場人物は数十名におよぶ。
声や背格好といった瞬間的に認識できる特徴だけでなく、仕草や動きのテンポなど継続的に目で追うことで得られる視覚情報が、俳優たちの芝居をより鮮明に伝えてくることも印象に残った。
 
本上映では各日ともに客席の反応も大きかった。
全体主義的な社会の閉塞感や、ノーラたちの行く末に終始不穏さを漂わせながら、華やかさや笑いも多分に含まれているこの作品。
至るところで笑いが起き、叙情的でもの悲しいラストにはかすかな嗚咽も聞こえた。
映像には本編終了後のカーテンコールも収録されている。今回の上映では連日、その映像での拍手に合わせたタイミングで、さらに映像が終わり明転したあとにも、万雷の拍手が巻き起こった。
14日に行われた上映アフタートーク上での簡単なアンケートでは、今回が初見の観客、すでに劇場で観たことがある観客の割合は半数ずつほど。
作品に新たに出会いに、あるいは再び感動を味わいに。
さまざまな期待を持ち寄って駆けつけた観客の満足がよく伝わる終演風景だった。
 

  

 

3日間の上映は連日多くの観客が訪れ、満席近い日も。

 

  

 

劇場ロビーには8Kモニターが設置され、高精細映像での定点映像のクオリティを確認できる。