【レポート】EPAD Re LIVE THEATER in Ishikawa 〜時を越える舞台映像の世界〜

2024年12月13日(金)〜15日(日)、金沢21世紀美術館シアター21(石川県金沢市)にて、「EPAD Re LIVE THEATER in Ishikawa〜時を越える舞台映像の世界〜」が開催された。2024年9〜12月にかけて開催された「いしかわ舞台芸術祭」のプログラムのひとつとして実施されたイベントで、EPAD主催による舞台公演映像の上映会である。
金沢21世紀美術館内にある劇場「シアター21」。美術館は、9月から開催されている「いしかわ舞台芸術祭」が終盤であること、また週末という条件も重なり、多くの来館者が訪れていた。シアター21はふらりと立ち寄ることのできる場所に位置していた。
上映会では、初日の13日に、ヨーロッパ企画『サマータイムマシン・ブルース』(2018年/複数カメラ)を、14日は、MANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~WINTER 2023~(2023年/複数カメラ)、最終日はチェルフィッチュ×金氏徹平『消しゴム山』配信版「消しゴム山は見ている」(2021年/複数カメラ)と、ジャンルの多様な3作品を上映した。
ヨーロッパ企画『サマータイムマシン・ブルース』の上映会は石川県内外から幅広い世代の観客が訪れた。「これまでDVDで観てきたが、劇場で観られると聞き近県から駆けつけた」という人がいたり、また、映画化された戯曲であるため「初めて演劇版を観にきた」という人もいた。
2.5次元ミュージカルの中でも大人気作品であるMANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~WINTER 2023~の上映会は、全国から観客が訪れて賑わった。訪れた人の多くは、映像の上映会であっても、生の観劇に近い想いを抱いているという印象だ。鑑賞中には、作品の随所で笑い声やすすり泣きが聞こえてきた。
首都圏からの来場者は「観光もできて、石川を知る良いきっかけになった」、近県から訪れた人は「普段、観劇のために東京や大阪に出向いているが、地元で大好きな作品を観られる事が純粋に嬉しく、今後も開催してほしい」など、たくさんの声が寄せられた。
チェルフィッチュ×金氏徹平『消しゴム山』配信版「消しゴム山は見ている」は、主宰の岡田利規(作・演出)が、美術家である金氏徹平(舞台美術)をコラボレーターに迎えた作品。また、東日本大震災をきっかけに構想されたという。来場者からは、「石川でも災害があり、まだ復興まで至っていないので、自身の体験に引き寄せて観ました」といった感想も寄せられた。
ヨーロッパ企画『サマータイムマシン・ブルース』と、MANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~WINTER 2023~の上映後にはそれぞれ、作品関係者によるアフタートークを実施。
ヨーロッパ企画『サマータイムマシン・ブルース』の上映後には、諏訪雅(ヨーロッパ企画)と酒井善史(ヨーロッパ企画)が登壇し、聞き手をいしかわ舞台芸術祭ディレクターの荒川ヒロキが務めた。
まず荒川が、いしかわ舞台芸術祭にEPADの上映会をプログラムした経緯について「舞台公演を地方で多く巡演してもらうことはなかなか難しい。上映であれば、鑑賞機会をひろげることができるので、EPADにも参加いただきました。」と語った。
つづいてヨーロッパ企画のふたりが上映会の感想について語る。諏訪は「自分の出演した舞台公演映像を観るのは、販売用DVDのオーディオコメンタリーを収録するときくらい。今回のように客席でじっくりと観るのは恥ずかしかったです。」と話すと、酒井も共感しながら「もっとこうしたらよかったのに、などと、自分の芝居を振り返りながら観ていました。」と語った。
また諏訪が、「笑いが、映像中のお客さまから沸き上がっているものか、この上映会場で起きているものか分からなかったです。」と話すと、酒井がつづけて「映像が精細なので、映り込んでいる客席と上映会場の客席が地続きになっているように感じた。映像内のお客さんのリアクションもこの場で起こっているようでした。」と語り、上映で感じられる、映像内の空間との精神的な距離の近さに魅力を感じているようすであった。
荒川より「ヨーロッパ企画は、メンバー皆さんが脚本や演出など複数の役割を担っている。それぞれの視点から、舞台公演映像の上映会実施に対する考えをお聞きしたい。」と質問が投げかけられた。諏訪は「今日上映した映像は、当初DVD用に撮影していたもの。急にアップにしたカットが入るから、劇場空間で観るには寄り過ぎていた瞬間があったかも。大きな場所で上映するなら、定点映像で俯瞰して観られることが良い場合もあると思います。」と答え、酒井もうなずいた。
再演を重ねたり、シリーズ上演をするなど多様な展開をみせている本作のエピソードについても語られ、話に花が咲く。最後には登壇者のふたりより、「上映会にとどまらず、実際の上演でまた石川を訪れることができるように」と望みが語られ、トークは締め括られた。
翌日の14日、MANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~WINTER 2023~の上映後には、亀田真二郎(脚本)、荒牧慶彦(出演)、輝馬(出演)が登壇した(聞き手は前日同様、いしかわ舞台芸術祭ディレクターの荒川ヒロキが担当)。
冒頭、荒川がEPADの事業説明をすると荒牧は「この取り組みが技術として確立していけば、めちゃくちゃいいことですよね。」と感想を述べた。つづいて亀田も「一昔前だと舞台の映像化はまず難しかったし、このような会場で映像を鑑賞する機会もなかったです。」と過去を回想した。
トークは作品の話で盛り上がる。本作は、荒牧にとっては『A3!』最後の出演であり、輝馬にとっては最初の出演。2人が共演する唯一の作品だ。亀田は「卒業式と入学式を一緒にやらなきゃいけない。大事なシーンがたくさんあって、脚本の執筆が難しかったです。」と語った。
また荒牧は当時を振り返り、「最後だから板の上で丁寧に紬(役名)を紡いでいこうと心がけました。新たに輝馬くんが参加してくれてうれしい。絶対大丈夫だと思った。」と話した。輝馬も「参加してみて安心感しかなかったです。」と語った。
荒川から、原作がある作品を上演する際に大切にしていることは何かと問われると、亀田は「今作に限ったことではありませんが、たとえばゲームのために書かれたものは、ゲームで最高値になるようにできているし、漫画もそうで、漫画で描いたときに一番おもしろくなっています。だから原作を知っている人にとっては壊さないでほしい世界があると思う。2次元なら成立しても、3次元のぼくらがやるとチープに聞こえるものがあります。それを慎重に探して真剣に考えています。」と答えた。
荒牧も亀田の言葉にうなずき、「僕も原作の世界感をこわさないことを大切にしています。たとえば今作だと、まず紬たらしめているものを、必ず手元に備えておく。そこから、仕草や振る舞いなどは、自分の解釈をふくめながらイメージをふくらませています。」と話した。輝馬も荒牧と同じように、身体表現をよく考えると語った。話題は、舞台芸術業界においてそれぞれが今後取り組んでみたいことや、『A3!』を地方で上演した際のエピソードについても及んだ。
最後に登壇者一人ひとり、挨拶を述べた。輝馬は「最初に参加した、とても思い入れの深い作品でした。今日の上映を楽しみにしていましたし、数年ぶりに皆さんと一緒に観ることができてうれしいです。ありがとうございました。」と語った。荒牧は「私はプロデュース業もしています。演劇やエンタテインメントの新しい魅力を、多くの人に届けたい。このように上映会をひらいていくことは非常に意義のあることだと思います。このような機会を増やしていって舞台芸術の輪をひろげてほしい、僕もできることは協力させていただきたい。一緒に演劇の灯火を盛り上げていけたら。」と話した。亀田は「僕にとって宝物のような作品を、再び多くの方に観ていただくことができてありがたいです。今後ぜひ劇場に足を運んでいただきたいですし、観に行くことが難しいときは、今回のような上映会の機会に、ぜひ友人を誘って観にきてほしい。演劇の醍醐味を一緒にひろげていきましょう。」と観客に呼びかけた。
文:EPAD事務局
写真:下家康弘