Report
2026.01.17

【レポート】EPAD 舞台公演映像 見本市「舞台映像上映 Reライブシアター 体験試写会」「舞台映像 アーカイブシアター」

2025年10月2日から5日にかけ、一般社団法人 緊急事態舞台芸術ネットワークが東京国際フォーラムにて開催した「Performing Arts Base 2025」(通称:PAB)。さまざまな催しが行われるなか、EPADは「舞台公演映像 見本市」として参加。舞台芸術アーカイブの理念を伝えるべく、10月3日から5日まで3日間にわたってイベントを行った。
このレポートでは4日及び5日に行われた、二種類の映像上映に関するイベントの模様をレポートする。
 


 
4日に行われたのは「舞台映像上映 Reライブシアター」体験試写会。
EPADが推進している、定点カメラで収録された舞台映像の全国公立文化施設での上映会。
高画質映像の等身大に近いサイズでの上映は、その場で上演されているような錯覚を鑑賞者にもたらす。劇場までの距離の遠さや時間の作りづらさ、チケット代の高額化など、舞台鑑賞の様々なハードルを下げ、より多くの人に観劇体験を届けるべく、EPADではこの映像上映の取り組みを積極的に続けている。
 
この日は、実際に上映会で使用している機材を用い、定点映像作品を20分ずつ鑑賞する試写会を開催。
イベントは2部制で、上映作品とスケジュールは下記の通り。
 
第1部(13:15〜14:15)
イキウメ『奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話』/2024年 東京芸術劇場 シアターイーストにて収録
ヨーロッパ企画『来てけつかるべき新世界』/2024年 本多劇場にて収録
蜷川幸雄七回忌追悼公演『ムサシ』/2021年 彩の国さいたま芸術劇場 大ホールにて収録
 
第2部(16:15〜17:15)
こまつ座『母と暮せば(2024ver)』/2024年 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて収録
椿組2024年夏・花園神社野外劇 『かなかぬち』〜ちちのみの父はいまさず〜/2024年 花園神社 境内特設ステージにて収録
ケムリ研究室 no.3 『眠くなっちゃった』/2023年 世田谷パブリックシアターにて収録
 


 
試写会前の説明会では、EPAD設立の経緯からこれまでの歩みを振り返るとともに、舞台芸術のデジタルアーカイブ化における達成と今後の展望が語られた。
 
一般社団法人EPADは、コロナ禍に立ち上がった緊急事態舞台芸術ネットワークと、寺田倉庫株式会社によるEPAD実行委員会が発展し、2023年に設立された。デジタルアーカイブを活用して舞台芸術を未来と世界へ届けるために活動を継続してきた。
舞台映像を通じて舞台芸術と観客のあらたな出会い、利活用を進めるべく、公演映像の収集をはじめ、権利処理や配信、新規収録、教育事業、バリアフリー字幕といった様々な事業を展開してきた。
2024年度からの3年間は「舞台芸術業界におけるデジタルアーカイブ自走への3年間」と位置づけ、持続可能な仕組みの構築をめざし活動している。
 
今回の試写会でフォーカスされた上映事業は2022年度からスタート。さまざまなトライアルを続け、現在では全国公立文化施設での上映会を行っている。
 
説明会では、実際に定点映像を観ながら、上映会を支える設備や機材についても解説。劇場間口を覆うサイズのスクリーンや、マルチトラック再生で臨場感を増す音響システムなど、より臨場感のある鑑賞体験をもたらすためにEPADが行っている実践的な工夫を紹介。
実際に上映会を行いたいと考える劇場関係者にとって、上映の様子を体感できる機会となった。
 

 

 
10月5日は「舞台映像 アーカイブシアター」として、複数カメラで収録・編集された舞台公演映像を上映。
上映後は感想をシェアする場をもうけ、舞台芸術と観客をつなぐ映像の可能性を探った。
 
上映作品とスケジュールは下記の通り。
 
第1部(12:00〜14:35)
舞台『未来少年コナン』
 
第2部(16:00〜17:45)
二兎社『ザ・空気 ver.3 そして彼は去った・・・』
 

 
作品上映後はラウンジに場を移し、舞台公演作品のパンフレットを多く手掛ける金田明子(編集者)をゲストスピーカー、EPAD事務局を聞き手に、参加者による感想をシェアする場を開いた。
 
参加者は、その場で直接発言することはもちろん、配布されたQRコードから「Live Q」へアクセスして書き込む、または用意されたふせんに書き込みスタッフに渡すことで、感想を伝えることができる。
 
第1部『未来少年コナン』は、宮崎駿監督の歴史的名作アニメの初舞台化作品。世界的評価の高いインバル・ピントが演出・振付・美術を担当した。
感想では、戦争により荒廃した世界のなかで生きる人類を描いた本作のテーマやストーリー、主演の加藤清史郎はじめキャストの熱演、舞台全体を使った目を見張る斬新な演出の数々、原作アニメとの比較など、様々な角度から鑑賞者の感じたことが語られた。
 
また、実際の公演を観たうえで「映像だと細かいところの美術などがよく見えて、また違った良さがあった」と語る声や、「上演が終わってもこうして大きな映像で観られる機会があることがありがたい」と語る作品のファン、俳優からの「このサイズのスクリーンで編集映像を見ると、客席で観たというより稽古場でディテールを観察しながら観る感覚に近い」というコメントなど、さまざまな背景を持った観客の感想が共有される機会ともなった。
 

 
第2部『ザ・空気 ver.3 そして彼は去った・・・』は、メディアと権力の関係を、リアルタイムの社会問題を投影しながら描く“空気”シリーズの第三弾。
 
上映日は奇しくも、日本初の女性総裁が誕生した自民党総裁選の翌日。2021年上演作品ながら、現在の社会状況との符合が話題になり、作・演出の永井愛の描く危機感、時代の空気を映し出した本作の強度をあらためて実感する感想が語られた。
またそうした“空気”は板の上だけでなく、フェイスシールドをしたスタッフの映り込みなど、作品外の当時の雰囲気からも感じ取れる、という感想もあり、コロナ禍という参加者たちの共有する記憶との重なり合いも見られた。
 
第1部から通している参加者から『未来少年コナン』映像との比較や、作品性と映像との相性についての考察なども語られたほか、「こうした作品に感化されて意見を出したくなった」という声のもと、観劇の地方格差に対してこうした上映会が意義を持つことや、EPADの上映事業を今後も持続していくための議論やアイデア提案も寄せられ、活発に意見が交わされた。
 
ゲストスピーカーの金田は、集った参加者の感想を引き出すとともに、各作品の背景情報についても解説。さらにそれぞれの作品について、関連性のある近日上演作品を紹介し、映像を楽しむことから生の舞台の観劇体験にもつながっていくための道筋を示した。
 


 
定点映像と編集映像の試写・上映を通じ、舞台作品と映像、映像と観客の関係を探ったEPADのイベント。
特に上映会では、映像でもそれぞれの作品の持つ魅力が観客に伝わり、ひとりひとりの言葉が引き出されていく様子が印象的だった。
寄せられた声が、時間や空間を超え舞台芸術を届けるEPADの取り組みに生かされていくことを期待したい。
 

ラウンジではEPADの教育利活用事業について紹介。高校・大学の教育現場で舞台映像を視聴することができる、舞台芸術映像視聴トライアルの資料も配布された。

 

 

 

 
文:北原美那
写真:サギサカユウマ