EPADパートナーインタビュー:竹崎博人(FlatBox)

EPADが舞台芸術をより手軽に、より身近に楽しんでいただくために力を入れている事業のひとつが「舞台映像上映 Reライブシアター」(以下、「Reライブシアター」)。2025年度に本格的に始動し、舞台公演映像を劇場空間で上映する取り組みを地方各地で巡回している。その上映事業を技術面で支えているのが竹崎博人(たけざき・ひろと)氏だ。より多くの地域で上映を実現するため、現在も低コスト化に向けて試行錯誤を重ねている。今回は、竹崎氏にこれまでの歩みや全国巡回上映を支える挑戦と工夫、そしてEPADの活動について話を聞いた。
 


 
——8K収録をされるようになったきっかけからうかがえればと思います。
 
2023年、静岡のストレンジシードで行われた『χορός/コロス』(ウォーリー木下)という野外劇の制作の方から「EPADに申請を考えているが8Kの収録をできるか」とご連絡をいただいて、8Kで収録したのが最初でした。もともと4Kでのマルチカメラ収録をする予定だったのですが、そこに8K定点収録が加わった形です。8Kで舞台の収録をするのは初めてでしたが、ちょうど半年ぐらい前にCanonから発売された、8Kが収録できるカメラを試す機会でもありました。
45分ほどの作品でしたが、5月の屋外でもちゃんと回り切るか事前にテストしたり、当日はカメラにしっかり重しをつけて風で動かないようにしたり、カメラに直接日が当たらないように風を送る機械を置いて日陰にしたり、いろんな工夫をしましたね。本番はすごくいい天気で日差しも強かったのですが、RAW撮影だったので、明るさのコントラストが強くてもなんとかいい感じで撮ることができました。
 
それから8K収録を行ないつつ、2024年度の全国を巡回する上映事業に参画することになり、6月から研修のために神戸をはじめとして5箇所を回りました。その期間に、最初に持ち寄ったプランを試して、いろんな問題点を洗い出して、さらにブラッシュアップする、といったことを進めていきましたね。
 

収録時の様子

 
——当初はどんなことを試して、何がうまくいかなかったんでしょうか。
 
それまでの上映会を見て、大掛かりだった上映システムの機器をできるだけコンパクトにしたいと思っていました。再生はPCからと決め、それ以外にも取捨選択をして手間とコストを下げる準備をして神戸に臨んだんですが、再生はできても読み出しの速度が足りず映像が乱れる、といったことがありました。
あとは音声について聞き取りやすくしたいという課題がありました。音響スタッフと収録のサウンドエンジニアの方と僕とで、どうすればセリフが聞き取りやすく音圧がある音声になるか、相談しながら各地を回ってテストしていきました。
 

上映会事業の機材セット風景

 

上映会事業の機材セット風景

 
——上映会をされていく中で、気付かれたことや変化されたことはありますか。
 
EPADの活動全般に感じられることですが、実際に定点映像を高画質で上映して細部の表情も見えるとわかった時に、これは確かに全国を回る意義があるな、と思いましたね。地域に舞台作品を持っていくのは大変なことなので、予算を少なく作品自体を持っていくことができれば、舞台芸術の文化を広げる意味で確かに大きな意味がある。そのために、技術に関わる課題点は自分たちで考えながらよくしていきたい、という意識に切り替わったように感じます。
また、上映会で実際に経験を重ねないとわからない部分も多いなと感じました。たとえばプロジェクターですが、映画館よりもっと大きいスクリーンで上映するので、投影の限界サイズをちょっと超えてくるんですよね。スペック上は 大体500〜600インチまでは投影できるとありますが、レンズによっては限界値を超えるサイズを出すと途端にぼやっとしてしまったりする。数値の上では問題がなくても、実際に距離とサイズを確認する必要があるなと思いました。
 
——現状で、上映会の中で課題になっていることはあるのでしょうか。
 
音声について、ホールによっては音が反響してセリフの明瞭度が下がることもあるので、今はそれに取り組んでいます。音楽向けのホールは、残響時間があり、音楽・音が綺麗に響くのですが、上映会ではかえってセリフが反響してしまい聞こえづらさとして作用したという感じですね。全国各館で上映を実施してきて、上映させていただく施設が増えたからこそ新しい課題にぶつかりました。音声については、今も対策を練って準備しているという状況です。
 
——上映会に対して今後の展望などありますでしょうか。
 
上映会に関しては、できるだけコンパクトに、簡単にできることが今後に繋がると思うので、誰でも上映事業ができるようになるのが理想かなと思ってます。そのためEPADに合流した時点から念頭に置いているのは、できるだけコストを下げ、コンパクトにすることです。例えば当初上映会で使用していたプロジェクターは、 20,000ルーメンのプロジェクターで、本体価格が2000万円ほど、本体も重いので運搬コストもかかり、 毎回劇場で200ボルトの電源を確保することが必要なものでした。それを2024年の暮れ頃に、 15,000ルーメン程度のプロジェクターを代替として提案し、テストを経て変更しました。本体価格も4、500万ほどなのと、サイズが小さくなったので運搬コストも下がりました。
クオリティをより良くするためにはコストが増えがちではあるんですが、最初の頃よりは圧倒的にコストダウンができてきていて、今後も可能な限り下げて、全国の会館が上映事業をより簡単にできるようにしていきたいと考えています。
 
——ありがとうございます。少し本筋から外れてしまうんですが、「舞台公演映像見本市」で、竹崎さんが舞台映像の配信をかなり早い段階で行なっていた、と語られていたのが印象的でした。
 
そうですね、コロナ禍で舞台配信が注目されるだいぶ前、2008年頃から「USTREAM」という媒体を使って、今はフルHDで配信できるんですが、当時はSD画質という規格の画質で配信していました。だいぶ早い段階で関西でいろんな配信をやっていたのですが、それがきっかけである劇団の制作の方と知り合って、作品の配信もすることになりました。それが最初のきっかけというか、多分それをやってなかったら、今ここでインタビューも受けてないんだろうな、という感じです。
 
——当時の配信は、今と同じように配信用チケットを買って、というものだったのでしょうか。
 
振り返るとマネタイズできてない部分だったとは思うんですが、収録のおまけとして配信もやろうという感じでしたね。当時 SNS が盛り上がってきた時代でもあったので、映像の生配信をやって1000人ぐらいの同時視聴があって、視聴者のコメントがすぐつく、というのが楽しくて、その時はすごくハマってましたね。映像はマルチで撮って、生でスイッチングして配信したり、スイッチングしたものをその日の夜に上げたりしていました。リアルタイムで盛り上がるのは、やっぱりどの分野においても重要だと当時すごく感じましたね。演劇のムーブメントがあった80年代から 90年代頭頃は「なぜかお客さんが見に来る状況だった」と当時の制作さんが語っている本を読んだことがあるんですが、メディアの力もあって、そういったムーブメントを小規模でも起こせるようになった、という感覚を、そのSNS 時代の始まりの頃に感じてました。
 
——当時の先駆け的な配信の試みが、今にもつながってるんですね。そうした最新の技術や試みにどうやって触れているんでしょうか。
 
僕がガジェット好きというのもあって常にアンテナを張っているので、例えばドローンや8K、 VRのような新しい技術が出た時に、まず調べて、実際触ってみて、といったところまではやってしまうんです。それを周りにいる映像の人の横のつながりで意見を出し合ったり情報を共有することもよくあります。
8Kを初めて見たのは2012年の「InterBEE」という映像技術の展示イベントでしたが、今は最先端でいくと、17Kや32Kと言われています。また舞台映像との関わりで言うと、ボリュメトリックビデオという、AIを使用して3箇所からのカメラの映像を使って3D のデータに置き換えることが可能になる技術が開発されていますが、それを使って3D データとして舞台を残す、といったことも今後おそらく可能になるんじゃないかなと思ってます。
AIは盛り上がっていますが、ただそのおかげで今半導体が足りない状態で、実際に記録メディアやパソコンのメモリなど、あらゆるものが高騰しているのはデメリットですね。そのコスト削減が今一番悩んでたりすることだったりします。
 
——今後、収録でも上映でも、ご自身の活動でやってみたいことはありますでしょうか。
 
個人的に思っていることですが、舞台の配信を番組のような編成でやってみるのは面白いかなと思ってます。2011年頃に、大阪市と関西ウォーカー、リッチクリエイティブという関西の舞台制作会社が三社合同で立ち上げた「ソーシャルネットワーク大阪」という番組でテクニカルディレクターをやっていました。当時は年間 100本以上の番組を作って、少ない予算ながらいろんなインタビュー撮りに行ったりして、楽しかった思い出があります。たとえばEPADで実現するなら多分定点よりはマルチのカメラの上映がいいかなと思うんですが、番組コンテンツとして決まった時間帯に上映する、みたいな仕組みができたら、ちょっと面白いと思います。 そこにゲストが参加したり、今だったら「X」 のスペース機能で感想を言いながら観たり。そういった活動も面白いんじゃないかなとちょっと思ってます。
 

 
(2025年12月取材)
取材・文:北原美那