2021.03.11

舞台作品の配信権利処理の注意ポイント

EPAD事業権利処理チーム監修

舞台芸術作品を配信するときに必要なことは、当該作品を構成する各要素を検討して許諾の必要な要素を特定し、権利を有している権利者を洗い出し、各権利者から適切に『配信』の許諾を得ることです。こうした、作品を配信等で利用するために必要な各権利者から許諾を取得するまでの作業を一般に「権利処理」といいます。
演劇作品・舞台芸術作品を配信するときに必要な権利処理の方法につき、詳しくは「舞台芸術の公演映像配信のための権利処理マニュアル」をご確認ください。

※また、著作権の基礎知識から学びたいという方は、以下の動画も参考にしてください。
『著作権の必須知識を今日90分で身につける!』

権利処理のマニュアル的な説明に関しては、上記をご確認いただければと思いますが、EPAD事業においては実際に舞台芸術作品に関する約1280本の映像と向き合い、商用配信を可能とするための権利処理に取り組み、約280本の権利処理をほぼ完了させました。

ここでは日本で「舞台芸術作品に関する映像配信のための権利処理を実際にやってみた振り返り」として、生の声を中心に紹介できればと思います。

まずEPAD事業において商用配信を目指すにあたり、最も大きな障害として立ち上がったのは、音楽著作権・原盤権処理です。通常、上演時には「上演」のための権利処理を各権利者との間で行っているはずではありますが、いざ上演した映像につき配信を行うとなると、そうした上演のための権利処理だけでは足りず、別途「配信」のための権利処理が必要になります。そして、音楽についてはしばしば、ここで上演時よりは格段に権利処理が難しくなるのです。
配信のための音楽の権利処理では、大きく分けて「音楽著作権(=歌詞・楽曲に対する権利)」と「レコード製作者の権利・原盤権(=利用音源に発生する権利)」の二点について検討が必要です。
(詳細については、上記マニュアル4―5頁・⑻⑼参照)

「音楽著作権」に関して、国内楽曲であり、かつ、JASRACやNexToneといった集中管理団体で著作権が管理されている楽曲については、比較的処理は容易といえますが、海外楽曲の場合には別途「シンクロ利用のための権利処理」というものの検討が必要となります。具体的には、海外楽曲を使用した映像を配信する場合、JASRAC管理曲などであってもそうした団体での一括手続だけでは足りず、各権利者との直接の指値交渉が必要となります。そのため、海外楽曲が増えれば増えるほど、権利処理のハードルは加速度的にあがります。
(実際にEPAD事業においては、特に音楽の権利処理にかけられる実質期間は非常に限られたこともあり、海外楽曲が4曲以上含まれている舞台芸術作品の権利処理については、自動的に断念することになりました。それでも日本音楽出版社協会や各音楽出版社の皆さまにご尽力いただけたこともあり、かなりの数の海外楽曲について権利処理を行うことができました。)

また「レコード製作者の権利・原盤権」に関しては、JASRACやNexToneといった権利を集中的に管理している団体は従来存在しなかったため、基本的には各レコード会社や原盤権利者と、一つ一つ交渉する必要があり、使用原盤数が増えれば増えるほど権利処理の工数は増えることになります。
(原則は上記のとおりですが、EPAD事業においては日本レコード協会の方々に各レコード会社の窓口となっていただいたことにより、短期間でおよそ通常では考えられない数の原盤権処理を行うことができました。)

以上を念頭に置いた上で、EPAD事業で実際に権利処理にあたったスタッフの生の声を以下ご確認ください。

楽曲について

  • 楽曲制作を依頼した作詞家・作曲家の同意のみで済むという観点からは、使用楽曲はオリジナル楽曲だと権利処理がしやすいです。
  • J-Popなど国内の既存楽曲を使用する場合には、JASRACやNexToneの管理楽曲のうち「配信」についても管理されている楽曲であれば、JASRACやNexToneの処理のみで済むため、権利処理はしやすいといえるでしょう(なお、配信プラットフォームによっては、配信プラットフォームが一括してJASRACやNexToneの処理を行っている場合も多いです)。
  • 上記の場合でも、既存の原盤を配信に利用するのであれば、別途レコード会社等の原盤権利者から許諾を取る必要はあります。Webサイト等に権利処理のための窓口がないレコード会社でも、一般のお問い合わせ窓口から原盤利用のお尋ねをすることで、対応して頂ける場合もあります。
  • 著作権の保護期間が終了しているクラシック音楽も、同じく既存の原盤を利用する場合はレコード会社等の原盤権利者からは許諾を取る必要があります。
    (著作権の保護期間の検討については、「舞台芸術の公演映像配信のための権利処理マニュアル」6-7頁を参照)
  • 海外楽曲は、JASRAC等で配信に関する管理がなされている場合であっても別途「シンクロ利用(映像と共に音楽を利用する場合)」の許諾に関する利用料を、音楽著作権者本人もしくは著作権者から委託をうけている音楽出版社と個別に交渉する必要があります。また海外楽曲に関し、既存の原盤を利用している場合には、原盤権利者(レーベル等)が海外である場合もあり、英語での交渉が必要になるなど権利処理のハードルは上がることにはなるでしょう。
  • ミュージカル作品において使用された海外楽曲のうち、個別の権利処理が必要となる楽曲については、こうした楽曲を他の演劇作品の中で使用することについては、許可されない場合が多いという実感です。
  • 既存の楽曲に関し、出演者によるアカペラ、口ずさみ、鼻歌の場合、原盤権利者との間の権利処理は必要ありませんが、音楽著作権の処理は検討する必要があります。
  • 替え歌は作詞者本人に「歌詞の改変」についての許諾を取る必要がある場合があり、権利処理のハードルは上がることになりそうです。
  • お笑い芸人のリズムネタは、一定の尺があると楽曲として著作権が発生している可能性があり、許諾を取る必要が出てくる場合があります。

 

その他音源について

  • YouTubeからの転用、カラオケ(アプリ・機械)音源の使用の場合には、そもそも元の音源が特定できない場合も多く、音源が特定できないとなると、その際の権利処理は極めて困難になります。
  • ラジオやテレビの音声を使用する場合も権利処理には注意が必要です(例:実際の野球の実況中継音声をBGMとして使用するなど)。
  • 電車の発着メロディ、ラジオ体操にも著作権が発生している場合がありますので注意が必要です。
  • お経などの音声も、特定の音源を使っているときには原盤権利者との間での権利処理が必要になります。
  • 「著作権フリー」を謳う音源サービス・サイトのものであっても、オンライン配信を行うと当該サイトの利用規約に引っ掛かる場合があります。利用規約をよく確認して使用を判断しましょう。

また音声のみならず、誰かが作成した動画や画像、キャラクタービジュアルなどを作品内にて使用する場合、「そうした要素を使用した作品映像を配信する」上で権利処理が問題となります。
以上を念頭に置いた上で、EPAD事業で実際に権利処理にあたったスタッフの生の声をご確認ください。

音以外の著作物について

  • 著作権管理団体によっては「上演・収録・DVD化・配信」など各種の利用方法に応じて、許諾の可否や条件が異なることがあります。将来的にDVD化やオンライン配信を考えている舞台芸術作品は、上演時点で権利者から許可を取得する際に「上演・収録・DVD化・配信」などのうち、どこまでの利用を行う可能性があるのか予め考え、許可を得ようとする利用範囲を決定した上で交渉を行うことも重要です。はじめに「上演」の許諾のみを得て、後から「配信」についての許諾を得ようと思っても、「配信」については断られてしまうというケースもあります。
  • 映画の一場面など映像作品をスクリーンに投影する場合は、短いカットであっても基本的に権利者の許諾が必要になると考えた方がよいでしょう。
  • 「フリー素材」を謳うWebサイトに掲載されている画像であっても、様々な種類のクリエイティブ・コモンズの規定や、サイトごとに利用規約が存在するため、利用規約違反等にならないよう使用の際には注意が必要です。
  • 特定の実在する店舗や企業の制服(コンビニエンスストアの制服等)や著名なキャラクターのぬいぐるみ等を使用する場合は、著作権や各種社内規定等の関係から許諾を得る必要が生じることがあります。使用作品や使用場面での台詞によっては「企業イメージ等を損ねかねない」と判断され使用許諾を得ること自体が難しい場合もあり得ます。
  • 遺書は通常著作物であり、その著作権の保護期間が切れていないものに関し、作品内で朗読したり改変したりして台詞にする場合などには遺族等の権利承継者の許諾が必要となるため注意が必要です。
  • 振付にも著作権があり、流行したダンスの振付をコピーして舞台芸術作品に利用するような場合にも、振付の権利者の許諾を得る必要が生じる場合があるので注意が必要です。