Report
2022.10.28

レポート:豊岡演劇祭 特別上映会

文:山﨑健太、写真:igaki photo studio

舞台芸術の鑑賞体験をより豊かにする

舞台芸術の記録映像はどのように活用できるのか。
映像資料はアーティストや研究者などの専門家によって創作や研究に活用され、映像配信はより多くの人が舞台作品に触れる機会を創り出す。だが、舞台芸術の映像には配信以外にもまだまだ利活用の方法がありそれによって観客の鑑賞体験をより豊かなものにできる可能性があるのではないか豊岡演劇祭2022の連携プログラムとして豊岡唯一の映画館である豊岡劇場を会場に開催された、豊岡演劇祭特別上映会はその可能性を模索する一つの試みだった。

EPADのパートナーである豊岡演劇祭が今回の上映会で上映したのは以下のは2作品。パリ市立劇場を創作の拠点に世界的な活動を続ける舞踏カンパニー・山海塾の『海の賑わい 陸(オカ)の静寂―めぐり 』(2015年初演)と第64回岸田國士戯曲賞受賞作であり豊岡演劇祭2020でも上演され大きな話題となったQ/市原佐都子の『バッコスの信女− ホルスタインの雌』(2019年初演)だ。山海塾とQ/市原佐都子の作品は豊岡演劇祭2022の公式プログラムにラインナップされており、劇場での上演と関連作品の映像、そして上映後のトークまでを一連のイベントとして体験することも可能な企画となっていた。

山海塾『海の賑わい 陸(オカ)の静寂―めぐり』

客席から見るのとは全く違った鑑賞体験

上映会1日目(9月19日(月・祝))に上映されたのは山海塾『海の賑わい 陸(オカ)の静寂―めぐり』。直前の17日(土)に演劇祭のプログラムとして山海塾『降りくるもののなかで―とばり』が上演されたばかりだったということもあり、同作を観て上映会に足を運んだ観客も多かったのではないだろうか。同じアーティストの複数の作品を見比べることが容易なのも記録映像の活用の利点の一つである。舞台芸術はその性質上、劇場での上演を観てあるアーティストに興味を持ったとしても、同じアーティストの他の作品をすぐに観るということはなかなか難しい。演劇祭によってあらかじめその機会が用意されているのは観客としては嬉しいことだ。

作曲家の吉川洋一郎と芸術文化観光専門職大学教授の熊倉敬聡

上映後のトークには1980年に山海塾の活動に参加して以来40年間以上にわたって山海塾全作品の音楽制作に関わってきた作曲家の吉川洋一郎と芸術文化観光専門職大学教授の熊倉敬聡が登壇。吉川は『海の賑わい 陸(オカ)の静寂―めぐり 』の映像をプロデュースした映像プロデューサーでもあり、この作品の映像は単なる記録映像ではなく、独立した映像作品としても十分に観られるものとして製作されている。

なんと11台ものカメラを使って撮影されたという映像は劇場の客席から観るのとは全く異なる複数の視点から舞台を捉えたものになっている。熊倉が指摘していたように音楽の存在感も凄まじく、この鑑賞体験は大画面のスクリーンと大音量に耐えうるスピーカーを備えた映画館での上映会ならではのものだったと言えるだろう。

トークでは山海塾における振付と音楽の関係(なんと振付の多くは無音で行なわれるという)や、当時たまたま留学中だったという熊倉も居合わせたパリでの山海塾の活動初期の話など多岐にわたる話題が展開された。

複数作品を見比べる楽しみ

市原佐都子とミュージシャンの坂本美雨

翌20日(火)はQ/市原佐都子『バッコスの信女− ホルスタインの雌』を上映。こちらは山海塾とは逆にノイマルクト劇場+市原佐都子/Q『Madama Butterfly』の初日を22日(木)に控えての上映会となった。トークゲストはミュージシャンの坂本美雨。話題は豊岡(城崎国際アートセンター)で書き上げられたという作品の創作プロセスや作中で重要な役割を果たしている音楽についてなど、クリエイター同士のトークらしい方向へ。創作のモチベーションに関するやりとりが印象に残る。Q&Aの時間には客席から率直な感想が飛び出す場面もあった。『バッコスの信女− ホルスタインの雌』と『Madama Butterfly』には無意識の偏見や差別、そして生殖(あるいは性交)など共通するテーマも多く、両作品を続けてみることで観客の思考はより一層刺激されただろう。

市原佐都子

ミュージシャンの坂本美雨

舞台作品の収録において音声をどう扱うか

独立した映像として作られた山海塾の映像と、舞台作品の記録として撮られたQ/市原佐都子の映像の違いは印象的だった。特に音声の収録や整音については、アーティストや撮影者がどのような選択をするかによって映像の仕上がりは大きく変わってくる。例えば山海塾の映像では、足音や環境音が全て除かれ、音楽だけが聴こえるように仕上げられている。これは演出家である天児の希望だ。一方、Q/市原佐都子作品の記録映像については、整音に手を加えず、観客のざわめきも感じられるラフな仕上がりとなっていた。そこに生々しさが残る。セリフのある舞台芸術の記録映像音声の聞き取りやすさが鑑賞体験の質に大きく影響する。すでにEPADでも高音質・高画質による収録に対する補助については取り組んでいるところではあるが、舞台芸術の記録映像を利活用していくにあたって映像のクオリティ、特に音声の質の向上については、今回の上映会を踏まえても重要視すべきポイントと受け止められた。

舞台芸術の上演/鑑賞は必ずしもそれのみで完結している必要はなく、その前後に様々な文脈を接続することで鑑賞体験はより豊かなものとなり得る。今回の上映会はその意味で、舞台芸術の記録映像の活用の可能性をたしかに示すものとなっていた。

豊岡演劇祭2022

主催:豊岡演劇祭2022

協力:豊劇の未来を考える会 田中亜衣子 橋本泰樹、有限会社 石橋設計 伊木翔

共催:EPAD2022 / 文化庁 統括団体によるアートキャラバン事業(コロナ禍からの文化芸術活動の再興支援事業)