Report
2024.01.15

【レポート公開】EPAD×東京芸術祭 2023 ファーム共同企画/船越千裕「映像という新しい選択肢」

★EPAD×東京芸術祭 2023 ファーム共同企画とは
東京芸術祭ファームとは東京芸術祭の人材育成と教育普及を目的に2021年にスタートしました。今回、ファームに参加している方々より公募によって協力者を募り、「EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo」のレビューやレポートを書いて頂きました。ここではその中よりいくつかご紹介させて頂きます。
 
★「EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo~時を越える舞台映像の世界~」概要
https://epad.jp/news/32138/
 

EPAD×東京芸術祭 2023 ファーム共同企画/船越千裕「映像という新しい選択肢」

上映作品:公益財団法人スターダンサーズ・バレエ団「くるみ割り人形」

撮影:HASEGAWA PHOTO Pro.

 
EPAD Re LIVE THEATER in TOKYOで上映されたスターダンサーズ・バレエ団の「くるみ割り人形」を鑑賞した。これは、舞台芸術を映像として記録し、未来へとつないでいく取り組みである。この取り組みを通して「生」「ライブ」という特質であるがゆえに、消えゆく宿命を持つ舞台芸術との新しい向き合い方について考えていきたい。
本作は、イマ―シブサウンド、8Kの定点映像で撮影されており、実際の観劇体験に近いものが再現されていた。立体音響のイマ―シブサウンドは、劇場で観劇したときのように、身体の芯に響く音が感じられた。オーケストラで演奏される音楽はもちろんのこと、ダンサーがジャンプした後の着地の音もかすかに聞こえ、映像という画面を超えて、リアルな演者の存在感と臨場感にあふれていた。
また、今回の定点映像では、舞台全体が映し出されるため、鑑賞時の視線の移動がスムーズに行えたように思う。そのため照明や舞台美術といった点にも注目することができた。さらに、カメラの切り替えが行われないため、「雪の精」や「花のワルツ」といった、大勢のダンサーで踊る場面でのフォーメーションの変化や、ダンサーたちの揃った振付といった、群舞の醍醐味を味わうことができ、その美しさが際立っていた。
一方で、カメラの切り替えやズームが行われないということは、観客自身が、注目して見るポイントを取捨選択しなければならないということでもある。視点の取捨選択は、劇場で観劇する際も同じである。オペラグラスなどを使用しない限り、特定の人物を拡大して観ることもできない。しかしながら、我々が日常で目にする映像、例えば、映画やドラマ、YouTubeといったものは、映像作品として編集されているものがほとんどだ。「演出された」映像に慣れているがゆえに、今回のような定点映像での鑑賞では、集中力が途切れてしまうこともあった。劇場では、「生」「ライブ」というある種の緊張感によって保たれる集中が、映像作品になると突然困難になってしまうのである。一幕冒頭、大勢の演者が登場し、踊りではなく、芝居によって展開していく場面では、舞台上のあらゆる場所で同時多発的に物語が紡がれるため、視点に迷いが生じた。この難しさは「台詞」というスポットライトが存在しないバレエの特性とも関係していると考えられる。本作においては、定点映像であることによって、舞台芸術を、映像作品として「魅せる」というよりも、記録に残すという意味合いの方が強いように感じた。
昨今、舞台芸術が都市に一極集中している状況を変えようとする動きは見られる。それでもなお、地方での観劇の機会は、都市に比べると少ないだろう。また、個人的な事情により、劇場で鑑賞することが難しい人もいる。舞台を観劇するため、劇場に赴くことは、必ずしも万人に開かれたものではないのである。その中で、作品を映像として残すことは、より多くの人に舞台芸術に触れる機会を与えてくれるのではないだろうか。舞台芸術における映像という新たな選択肢は、物理的な距離を超え、さらに過去から未来へと作品を届けてくれると、今回の鑑賞を通じて確信した。