Report
2024.01.16

【レポート公開】EPAD×東京芸術祭 2023 ファーム共同企画/木皮成

★EPAD×東京芸術祭 2023 ファーム共同企画とは
東京芸術祭ファームとは東京芸術祭の人材育成と教育普及を目的に2021年にスタートしました。今回、ファームに参加している方々より公募によって協力者を募り、「EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo」のレビューやレポートを書いて頂きました。ここではその中よりいくつかご紹介させて頂きます。
 
★「EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo~時を越える舞台映像の世界~」概要
https://epad.jp/news/32138/
 

EPAD×東京芸術祭 2023 ファーム共同企画/木皮成

上映作品:舞台『弱虫ペダル』THE DAY 1

撮影:金山フヒト

 
本企画「EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo~時を越える舞台映像の世界~」のリストを提案していただいた際に真っ先に、「舞台『弱虫ペダル』THE DAY 1」を見たいと思った。理由としては、ふたつあった。まず私は「原作を読んでないということ」と2つ目の理由は、普段私は劇団作品の振付をしているので、「ダンスがある演目を見たい」と思ったからだ。
原作を読んでないからこそ、舞台作品として先入観なく楽しめると考えたのと、普段仕事をしているフィールドとは違う視点で作品を捉えたいと考えたからである。これも気軽に作品に触れる機会をいただけたアーカイブ事業の利点だと思う。
 
「観劇」とはなんだろう。
作品に触れる前に、今回、鑑賞した環境について感じたことを書きたい。会場は東京芸術劇場シアターウエスト。私も演者としてだったり、振付家として何度も利用させていただいたことのある劇場である。
今回は舞台上に大きなスクリーンがあり、そこにプロジェクターでアーカイブ映像が投射され作品を鑑賞する。
緞帳幕のようなものはないがプロセニアム・アーチよりも奥にスクリーンが配置されていた。
些細な差ではあるが、緞帳幕の前にスクリーンが存在するか、奥に存在するかで、鑑賞体験で表徴されるものが変化することがわかった。
例えばスクリーンが緞帳幕より前にあれば、投射される映像に映画館のような集中力で鑑賞したりするが、今回鑑賞した会場はスクリーンが緞帳幕より奥にあり、あたかも映像内の表現が見えている舞台の床面を感じ、さながらそこに表出するような感覚になったのも鑑賞体験として面白かった。
 
「舞台『弱虫ペダル』THE DAY 1」はどんな作品か。
総北高校に入学した小野田坂道が、ひょんなことから自転車競技部へと入部することに。孤独なオタク少年だった小野田が自転車を通じて出会った仲間や先輩達と共にインターハイ優勝を目指すというストーリー。
率直な感想を言うと非常に演出の手数とレパートリーが豊かで、座組みの出演者、スタッフも、漏れなく全員がひと時も「お客さんを飽きさせない」という気概を感じる。
もちろん、今回はアーカイブ映像の鑑賞ではあるので、もし劇場での鑑賞であれば私も映像の中の観客たちと同様に魅力的な出演者、豊かなライティングに没入していくことだろうと思う。
ある意味俯瞰しながら鑑賞できることもアーカイブ鑑賞の1つの楽しみ方なのかと思えた。
 
アーカイブ化された音響の再現は必要?
1つミュージカル作品においては、音響のデザインもその作品の大きな核を担う要素だと思う。つまり、アーカイブとして残された音楽や音のデータは、上演会場と同一にはできないだろうし、俳優のポジショニングによる臨場感はどうしても味わえないのだと考えると現在のアーカイブ技術を持ってしても上演の臨場感の再現には、さらに段階があるのかと思った。そこは作品の強度が高かったからこそ、感じた歯痒さなのかもしれない。
 
アーカイブの未来
話は少し広がるが、そもそも演劇は2500年もの歴史を持っている文化である。そしてその反面、人が人に行う文化である性質上、人がいなければ続けることができない脆さも持ち合わせていて、近年のコロナ禍の影響は避けられなかった。
しかしEPADのアーカイブ事業はメディア(上演された作品)の半永久的な保存が可能にした。今回鑑賞させていただいたものは膨大な舞台芸術の歴史の一部であるというのは理解しているつもりだ。
そして今後も、今回の私のように今まで「出会い」のなかった人が作品に出会える機会が広がっていく可能性を感じた。
アーカイブ鑑賞の機会は、舞台芸術の大きな交差点に立たせていただけるそんな機会なのかも知れない。