EPADパートナーインタビュー:THEATRE for ALL

THEATRE for ALL シアターフォーオールは、「劇場体験にアクセシビリティを」をミッションに、バリアフリー対応動画の配信やワークショップ等の参加型プログラムを行うオンライン劇場。パフォーミングアーツの制作を手掛けるprecogが2021年に立ち上げた。
EPAD発足と同年に発足し、これまで劇場に来づらかった多くの人たちに舞台芸術を届けているシアターフォーオール。開かれた劇場はどのように生まれ、舞台芸術文化になにをもたらすのか。
precog代表取締役の中村茜さん、プロデューサーの田澤瑞季さんに話を聞いた。
(取材・文:北原美那)
 

提供する側が変わることで劇場がより開かれていく

――シアターフォーオール設立に至る経緯を教えていただけますか。
中村 コロナ禍で劇場に来れない方が増えている状況を、そもそも以前から体の状態や生活環境など様々な要因で劇場に来れていない方に向けて、ステイホームで芸術作品を届けられるチャンスとして捉え、企画しました。これまで障害がある方が劇場に来るためには、例えば同行支援や情報保障が必要だったり、精神的なハードルもありました。コロナの機運を活かして、そうした方々に家などリラックスした環境で芸術に触れられる機会を提供できるのではないかと考えたのです。
2019年の日本財団主催の「TrueColorsFestival 超ダイバーシティ芸術祭」の事務局で、障害だけでなく国籍や言語、性、世代などを越えていろんな方が集まる舞台芸術の大型催事に携わる前は、こういったバリアフリーやアクセシビリティ向上についての思い込みもありました。音声ガイドや手話通訳、バリアフリー字幕といった情報保障、移動やチケット販売にあたってのサポート体制の整備など、もともとお金と人が足りない舞台業界で小さい会社を営む私には、「到底手に及ばない」と思っていたんです。
ですが、研修や実践を経て学んでいくうちに、自分たちが行動を起こさないこと自体が社会のバリアを強めてしまうということに気づかされ、できることから少しでも行動していくべきだという考え方に変わりました。どうしても障害は個人にあると抱え込みがちで、社会もそう考えがちですが、社会が変わればハードルがハードルじゃなくなることはたくさんあります。劇場も同じで、提供する側がもっと変化していけば、これまで劇場に来れなかった方にも作品を届けられる。できることから少しづつ変化につなげていければ、と考えて作ったのがシアターフォーオールでした。
 
THEATRE for ALL メインビジュアル(ひとつのタブレットで動画を見る車椅子ユーザーと立っている人、スマホで動画を見る人、義足の旅人、砂漠、高速道路、高層マンション、熱帯植物など印象的なモチーフがコラージュされている。それぞれが自分のペースで好きな場所から芸術鑑賞ができるプラットフォームであることを象徴)

 
――シアターフォーオールは、日本初の演劇・ダンス・映画・メディア芸術を対象にしたバリアフリー対応のオンライン型劇場ですが、開始される際はどんな反応がありましたか。
中村 コロナ禍での始動だったので、オンライン劇場というコンセプトに注目が集まりましたし、全作品・全イベントに手話などの情報保障がつく、ということに芸術界だけでなく、福祉や教育の業界からも熱い期待が寄せられました。一方で、障害当事者の方からの、「これまで劇場やアーティスト側は障害のある人たちに対して無関心だったのに、今更なんだ」という反発を感じたところもありました。調査や統計を見ると、障害のある方にとって舞台芸術は、そもそも劇場に行くことや上演中の情報保障などのハードルも高く、美術やデザインなどの表現活動に比べてなかなか浸透できていない課題があります。まずそれに気づけたことをひとつの成果として、ここをスタートラインに、様々な団体と連携しながら、舞台芸術が障害のある方にも開かれている状況を作っていきたいと考えています。
 
――障害当事者の方にはどのようにアプローチされていきましたか。
中村 立ち上げの際、アクセシビリティチェックで、障害者専門のクラウドソーシングサービスであるサニーバンクさんに登録されている方々にご協力いただきました。例えば視覚障害と言っても、全盲や弱視、先天性や中途失明など、状態によって色彩感覚も違います。また、視覚障害の方には色の明暗が強いデザインが見やすいことが多いですが、一方で精神障害の方にはそのデザインがギラギラして見にくくなってしまう場合がある。そういった障害の違いやグラデーションのなかで何を取捨選択していくか、サニーバンクさんにいらっしゃる様々な方と一緒に決めていきました。
他では、シアターフォーオール・ラーニングでは、聞こえない方や、見えない方も一緒にワークショップに参加できる対話型鑑賞や、表現ワークショップを多数開発したり、トークイベントやワークショップは必ず文字支援や手話通訳さんに入っていただいています。また、手話や音声ガイドなどの情報保障制作のプロセスで、翻訳内容についてのモニター検討会を実施し、障害当事者とアーティストやプロデューサーの意見交換の場を作ったり、同時に障害のある方に芸術作品を拓く際のノウハウをシアターフォーオールの「読む」記事を通じて発信したりしています。
 

つながり、循環していくプラットフォーム

――現在シアターフォーオールでは、作品制作や情報保障つきの配信動画を提供する「映像作品のアクセシビリティ」、解説動画やワークショップを行う「ラーニング」、リサーチやインタビューを行う「LAB」という3つの軸を掲げて活動されています。それぞれはどういった関係にありますか。
 
3つのアクセシビリティ事業(THEATRE for ALL:作品制作と動画配信、LAB:研究と実践、ラーニング:教育)

 
中村 シアターフォーオールは「見る」という芸術鑑賞体験を提供しつつ、並行してラーニングでは、「学ぶ」「参加する」という双方向的な交流の場、さらにラボを通じて字幕や手話、音声ガイドの情報保障のあり方の研究や、福祉施設での事業展開や、ファシリテーターやアーティスト、文化施設職員などの育成事業、障害当事者との対話や現場視察を通じて、障害当事者の鑑賞・表現活動のあり方について研究し、そこで得られた知見とシアターフォーオールの「読む」ページで発信したり、作品制作に生かすことで、循環しています。
また、舞台芸術に取り巻くバリアとして、劇場や芸術作品について言われる「わかりにくさ」ということも取り組んでいます。シアターフォーオール・ラーニングが提供するワークショップや解説動画を通じて、見えない人はどういう風にこの作品を観たのか、聞こえない人はどう観たのかと対話を増やすことや、アーティストがやさしい言葉遣いで作品について語る場を開くことで、作品にはいろんな解釈・表現があると気付き、「わかりにくさ」が「探究心」に変わり知的好奇心が育まれるよう工夫しています。
 
――実際利用された方からはどんな反応がありますか。
中村 シアターフォーオール全体で言うと、情報保障をつけた配信動画について、もっといろんな作品を観たいという反応が一番多いです。初めに用意できたのが約80作品で、演劇やダンスだけでなく、映画や落語、美術作品の映像版など様々なジャンルを提供しましたが、もっとエンターテインメント性が強い有名な作品やアニメーションなどを観たいというリクエストもいただいています。本来であれば、コンテンツ調達力のある大手動画配信プラットフォーム企業が情報保障をつけるのが一番良いとは思いますが、様々なプラットフォームがあるなかでシアターフォーオールがやるべきことを見直している最中です。
 
田澤 作品に情報保障をつける際の、音声ガイドやバリアフリー字幕の原稿を当事者の方に確認していただくモニター検討会では、いつも様々なフィードバックをいただき、作品の制作に携わった方とも確認をしながら字幕や音声ガイドを完成させます。完成してシアターフォーオールでの配信が始まってからも、当事者の方から感想をいただく機会はあり、去年のEPADさんとの取り組みで情報保障をつけた『瀕死の白鳥』『瀕死の白鳥 その死の真相』 について、目の見えないバレエ好きの方から「音楽と音声ガイドによって、白鳥役の酒井はなさんの繊細な動きや息遣いなどを感じることができた」と感想をいただきました。コンテンツ調達のバランスは常に検討しつつ、シアターフォーオールだからこそできた情報保障つき作品の意義はこういったところにあると思っています。
 
※岡田利規演出・振付。2021年10月(愛知県芸術劇場)*「ダンスの系譜学」にて初演。
https://theatreforall.net/movie/the-dying-swan/
 

表現と情報の黄金比を求めて

――2023年5月に開催した「TRANSLATION for ALL トランスレーションフォーオール」では、「身体表現の翻訳を考える」をテーマに、リアルとオンラインで公演や参加型プログラムを行っていました。contact Gonzoとやんツーによる新作パフォーマンス「jactynogg zontaanaco ジャkuティー乃愚・存taアkoコ」※1 のワークインプログレス・公演の様子を収録した制作ドキュメントがYouTubeで公開 ※2 されていましたが、作品に対する当事者の反応をアーティストはどう受け止めましたか。
 
※1 2023年5月19日(金)〜21日(日)ANOMALYにて実施。contact Gonzoが即興で行う身体接触パフォーマンスを、やんツー制作の自走する機械(カメラ2台と最新の対話型AI機能搭載)で「実況」した。
https://theatreforall.net/join/jactynogg-zontaanaco/
※2 現在は非公開。情報保障がついた映像が今後再公開される予定。
 
田澤 ワークインプログレスは本番の2ヶ月前に大阪で行われたものでした。視覚障害のモニターの山川秀樹さんに「何が起きているかわからなかった、この時間が苦痛だった」と率直なフィードバックを頂き、Gonzoとやんツーさんにとっては、大きな気づきを得たようです。その後、伝えるためにどうしたら良いかという議論をたっぷり、帰る時間ギリギリまで交わしました。山川さんは演劇や舞台芸術の鑑賞経験も多く、ご自身でもいろいろな活動をされてきた方なので、「こうすれば視覚に障害がある人でも楽しみやすいんじゃないか」とコミュニケーションをとってくださって。そこから5月の本番までブラッシュアップできたのは非常によい時間だったと思います。
 
また、蓮沼執太さん、梅原徹さん、宮坂遼太郎さんによる、みんなが参加できる演奏会をコンセプトにした「PLAY ?ーあそぶ?おとをだす?」でも、視覚障害、聴覚障害、ダウン症の方など様々なモニターの方から音の出し方やお客さんの巻き込み方についてフィードバックをいただき、急遽仕組みを変更したりもしました。聴覚障害がある方とどうやったら一緒に音を感じることができるか、アーティストとともに考え、カプセルトイの中に豆やビーズ、ネジなどの小物を入れて参加者と共に振ることで音を身体に伝わる振動に変換しました。それを会場内でウェーブのように端から順に動かすことで、視覚障害がある方へは会場の広さやお客さんがどのくらいいるのか、などをキャッチするための情報にもなりました。様々な障害のあるなしに関わらず、自分たちは何を伝えたいのか、伝えるためにはどんな「翻訳」が必要なのか、アーティストも私たちも苦戦をしながらでしたが、たくさん気づきを得たクリエーションでした。
 

「jactynogg zontaanaco ジャkuティー乃愚・存taアkoコ」ワークインプログレス後に
タッチツアーのようにAI機能搭載の自走カメラを触っている山川さんの様子。
撮影:吉永美和子

 

PLAY?ーあそぶ?おとをだす?」本番の様子。
演奏スペースと客席には境界線がなく、子供たちが自由に音を出して演奏に参加している。
撮影:加藤甫

 
中村 Gonzoとやんツーの作品については、AIの力を駆使しダンスを言語化するという”翻訳”という意味では面白く成功したけれど、「情報保障」として視覚に障害がある方に対してきちんと保障するものとは質が違った。そのような気づきもプロジェクトを通じて得た成果だと思います。
いわゆる情報保障とは、災害時の避難情報など、障害のある方にも情報がきちんと行き届くためのものですが、アーティストとしては、起きた出来事を表面的に音声化しただけではなく、もっと表現やニュアンス、そこから起き立つ印象や感情など、作品から想起されるさまざまな感覚を伝えたいという気持ちがあるんですよね。一方で視覚に障害がある人たちは、見えている人たちが観ている景色を見たいという欲求もある。お互いが歩み寄りながら、どうしたら作品として障害のあるかたにもよい形で届けられるのか、表現と情報の黄金比を導き出すために日々模索しています。同じことはおそらくいろんな現場で起こると思うので、できるだけこの模索は公開してみなさんの知見になればと思っています。
 
――今感じられる課題や今後の展開を教えてください。
田澤 トランスレーションフォーオールでは、アーティストと一緒に発見があったという達成感と、情報保障としてもうちょっとできたんじゃないかという反省が同時にあります。アクセシビリティというと難しく捉えられがちですが、連携団体やアーティストとともに、いろんな人に作品を届け、鑑賞体験を共有していくという大きな目標に向かって進んでいきたいです。
 
中村 ウィズコロナと呼ばれる数年間のなかで生まれたシアターフォーオールですが、これからアフターコロナの時代になり、コミュニケーションの在り方も変化しています。配信で作品を観るオンラインのコミュニケーションも継続しながら、より考え方や知見の普及にフォーカスしていく、具体的には、様々な地域の劇場や福祉施設との連携、映画祭 の開催地を増やし、上映会でラーニングや対話型のトークイベントも展開していくなど、オンラインだけではなくリアルの場で、より混ざり合える状況や新たな表現方法を障害のある方と作っていきたいです。また、情報保障の意義や現状、実践の方法などを発信し普及していくメディアとしても力を入れていきたいと思っています。
 
※まるっとみんなで映画祭。2021年からプリコグが企画・運営をするユニバーサルな映画祭。これまでに印西市(千葉)、那須地域(栃木)で実施し、今年度は那須地域(栃木)と軽井沢地域(長野)で開催した。
https://theatreforall.net/marutto-minnade-23/
 

より多くの人へ開かれたアーカイブへ

――EPADとの取り組みについても聞かせてください。共同の取り組みの初年度である2022年度はEPADの収集した作品のうち6作品に情報保障をつけ、そのうち5作品をシアターフォーオールで配信、加えて「2つのQ」などオリジナルコンテンツを配信しました。この連携にどんな意義を感じていますか。
 
田澤 アーティストに対してバリアフリー、情報保障の視点に気づいてもらうことが大きな意義だと思い取り組んでいます。例えば先程も話したモニター検討会では、実際に演出家や制作に携わった方に来ていただいて、当事者のフィードバックを聞きながら、ひとつひとつの表現についてみんなで半日、作品によっては1日かけて検討していきました。「このひとこと(字幕/音声ガイド)がないと当事者の方には伝わらない」「この(字幕/音声ガイド)は情報が多すぎるから省いてよいのでは」といったモニター検討会でのやりとりを経て、アーティストから、次からの創作に新たな視点ができたというような感想もいただきました。
 
――今年度の取り組みも含め、今後のEPADとの連携やEPADに期待することを聞かせていただけますか。
田澤 2022年度の連携では、シアターフォーオールの中で5作品のバランスを決めてEPADさんと進めましたが、2023年度は作品の本数をさらに増やし、当事者の方や福祉施設の演劇ファンの方たちへ、観たい作品や作品鑑賞に必要な情報保障についてヒアリングやアンケートをしながら進めています。
また、2023年10月に行われた東京芸術祭「EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo〜時を越える舞台映像の世界〜」では、字幕や手話、音声ガイド等の鑑賞サポート、当事者の方との感想シェアイベントや、障害の有無に関わらず安心して楽しめるように企画したユニバーサル上映会を行いました。
(詳細はこちら:前編後編
EPADさんのアーカイブ作品上映とセットで実施していくことで、今後も作品を届ける先や鑑賞できる人が増えていくことを目指しています。
 

ユニバーサル上映会の受付。入り口左手にユニバーサル上映会ののぼりが立っている。
撮影:宮田真理子

 

鑑賞サポート受付で音声ガイド機器を貸し出す様子。
撮影:須藤崇規

 

マームとジプシー「cocoon」手話弁士つき上映会の様子。スクリーン右手に手話弁士が立ち、手話で表現している。
撮影:宮田真理子

 

スマートフォンで感想共有ツールを使用している様子。
撮影:宮田真理子

 
中村 EPADには、たくさんのコンテンツをアーカイブとして後世に届けるという大きなミッションがあると思います。これまではやはり見える方聞こえる方が前提になっていたと思いますが、将来的には、見えない方聞こえない方でもアクセスできるようなアーカイブになってほしいという思いがあります。今後、社会的にも合理的配慮が義務化され、ろう学校や盲学校、特別支援学級や就労施設などで芸術体験が普及していくときや、今芸術に関心がなくても今後その面白さに気づいたり表現活動に携わりたいと思った時に、EPADのアーカイブがそういった方にも開かれているような図書館的なアーカイブになれば、障害のある方にとっても「自分たちも表現していきたい」という原動力になっていくだろうと思います。長期戦ですが、私たちも一緒にそこを目指していきたいと思っています。
 
今年度の取り組みについてはこちら
 

中村茜(株式会社precog 代表取締役)
 

田澤瑞季(株式会社precog バリアフリーコミュニケーション事業部)
イラスト:ハギーK