【レポート】実演鑑賞の追体験を目指した、舞台映像の上映会とは|EPAD Re LIVE THEATER in Okayama
収集した舞台公演映像の利活用の一環として、昨年度より劇場での上映会に本格的に取り組むEPAD。各地域の劇場で、舞台芸術作品のスクリーン上映を実施することを目指し、本年度は、公益社団法人 全国公立文化施設協会(以下、全公文)と共催し、数回にわたり舞台芸術関係者に向けた研修会を行う。その第一歩として、2024年6月13日(木)・14日(金)に岡山芸術創造劇場 ハレノワで開催された全公文が主催する総会・研究大会において、EPADの説明会が行われた。
「スクリーン上映の魅⼒と可能性〜舞台作品映像の劇場での上映会実施について〜」と題し、EPAD理事の伊藤達哉、松浦茂之が登壇。380名ほどの舞台芸術関係者へ向けて、説明を行った。
冒頭、進行をつとめる松浦から挨拶を述べ、それにつづき伊藤が、EPADの概要について説明。伊藤は、EPAD発足の経緯について述べたほか、現在の事業は大きく5つの柱(①保存・継承②情報の整理・権利処理のサポート③作り手と観客の新たなマッチング④教育・福祉等への活用⑤ネットワーク化と標準化)に分けて取り組んでいることも紹介した。
★EPADとは
https://epad.jp/about/
上映会は主に、”③作り手と観客の新たなマッチング”の枠組みにあたる。
2023年度より、東京で2回、そして愛媛、京都でも上映会を行ったEPAD。松浦は「舞台芸術作品の映像上映会は、EPAD以外でも数多く開催されているが、俳優の顔をアップにした編集映像の上映が主流。EPADが追求しているのは、定点映像による没入型シアター。これは、お客さんが観たいと思う場所に視点を移すことができるので、実演芸術を楽しむ基本的な構造に近づくことができる」と語り、EPADが目指す上映会の意義を述べた。
つづいて、比較・参考として、EPADが収蔵する3本の舞台公演映像を上映。
最初に上映されたのは、ケムリ研究室『眠くなっちゃった』のオープニングシーン(2023年上演/作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ)。8Kカメラによる定点での収録映像である。
公演タイトルや出演者の名前が、プロジェクションマッピングで披露される。この上映を観ている我々は、プロジェクションマッピングの映像を、さらにもう一つのカメラを通して鑑賞していることになるが、そうとは感じさせないほどの映像美であり、8K収録映像の高い技術力がよくわかる。
伊藤は「ケラリーノ・サンドロヴィッチさんが舞台全面を使用して、大胆かつ緻密にプロジェクションマッピングを演出した様子を、大きなスクリーンによって高画質・高音質で観ることができる。実演鑑賞で得る感動とは異なるものの、かなり近い状態での観劇を楽しむことができるのではないか」と語った。
次に上映されたのは、白石加代子の阿部定『百物語 阿部定事件予審調書』(2023年上演/演出:鴨下信一)。先ほどと同じく8Kカメラによる定点での収録映像が、等身大で上映された。
「実はこれは、”等身大”とうたいながらも、100%で投影された映像ではないんです」と松浦は話す。「実際は100%を少し超えていて、これを私たちは”心の等身大”と呼んでいる。映像を観たときに心地よさを感じるサイズがあり、それは100%から少し大きい場合が多い」と述べた。
よって、例えば実際の上演舞台の間口が7間(けん)であれば、スクリーンの間口も7間以上必要、つまり100%以上の投影に構えられるスクリーンを用意したほうが安心なのだ。上映会開催を通じて得た経験として、技術面での知見が語られた。
さらなる知見として、スクリーンを吊り下げる位置は、上演した舞台との地続き感を保つために、なるべく前面に定めると良いということや、上映会開催時の客席は、映像の画角に近い場所に設ける(例えば舞台を見上げるように客席前方から撮影した場合は、上映会の客席も同様に、前方に設ける)ことで、より実演を観ている状態に近い感覚を受ける、といったことなども共有された。
最後に上映されたのは、こまつ座『太鼓たたいて笛ふいて』(2014年上演/作:井上 ひさし・演出:栗山 民也)。定点映像での没入型シアターを目指しているEPADであるが、これは編集が施されたスイッチング映像での上映だ。
伊藤は「過去の名作を、映像でも良いから観たいし、後世にのこしたい。例えば私は、唐十郎さんが非常に若いときに演じられた映像を観た際に、音響も画質も良くはなかったけれども、当時観たことのない私にとっては非常に衝撃を受けた。EPADには『~~年も前の映像が~~にあるらしい』といった情報が届くので、積極的に探して収集し、活用に取り組んでいきたい」と語った。
松浦も同様に、過去の名作上映を観たときの感動を述べ「このような作品の上映会開催にも積極的に取り組みたい」と話した。
冒頭で記述した通り、EPADは本年度、数回にわたり、複数の地域の劇場で舞台芸術関係者に向けた上映会とシンポジウムを行う。松浦は、その紹介を行うとともに「今後舞台公演でツアーを行うことは、必要資材等の値上がりから、よりコストアップすると予想される。いまお見せしたような舞台映像の上映会をひろげることで、実演鑑賞に近い感覚で舞台芸術作品にふれる機会を、多く生み出せるのではないか」と語る。
伊藤は、「もちろん演劇人としては、生で舞台鑑賞をすることが最高」と前置きしたうえで「EPADが舞台映像の上映会を推し進めているのは、時間と空間を超越できるという映像の特性を活かして、実演鑑賞の持続可能性を高めていくためであるとご理解いただけたらうれしい」と全体に声をかけた。
14日(金)は、総会・研究会のアフターイベントとして、EPAD主催の上映会を実施。8Kカメラで定点収録された、NODA・MAP『兎、波を⾛る』(2023年上演/作・演出:野田 秀樹)を上映した。
また、劇場ロビーには、両日ともに8Kモニターが設置され、EPADが収蔵する8K収録の舞台公演映像を視聴できるようにしたほか、このモニターを通じて、劇場以外でも舞台公演映像を楽しめるようにする「鑑賞ブース」の取り組みも紹介した。
文:臼田菜南(EPAD事務局)
写真:冨岡菜々子
開催情報
【舞台芸術関係者向け】上映会&シンポジウム
~舞台芸術作品を「観に行く」から「やってくる」へ~
★全体情報
https://epad.jp/news/re-live-theater2024/
東海北陸支部(Tokai Hokuriku)
https://epad.jp/news/tokai-hokuriku/
7月19日(金)長久手市文化の家・風のホール/愛知
東北支部(Tohoku)
https://epad.jp/news/tohoku/
8月9日(金)いわき芸術文化交流館アリオス 中劇場/福島
九州支部(Kyusyu)
https://epad.jp/news/kyusyu
9月5日(木) サザンクス筑後・大ホール/福岡
北海道支部(Hokkaido)
https://epad.jp/news/hokkaido/
11月27日(水)北海道立道民活動センター かでるアスビックホール