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2023.12.08

【会期後半レポート】EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo〜時を越える舞台映像の世界〜

「EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo〜時を越える舞台映像の世界〜」が2023年10月11日〜10月22日、東京芸術劇場シアターウエストで行われた。東京芸術祭2023内で行われたこの上映会の模様を前後編でレポートする。
(取材・文:北原美那 写真:サギサカユウマ)

 

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10月17日19時から上映されたのは舞台『弱虫ペダル』THE DAY 1(2023)。自転車競技に青春を賭ける男子高校生たちを描いた同名漫画が原作。舞台上に演出サポートを行う「パズルライダー」が登場するなど独創的な演出で、2.5次元ミュージカル界のなかでも高い人気を誇る。今作ではロードレースインターハイ初日を描き、主人公の小野田坂道を中心に、仲間やライバルたちの活躍が展開されていく。俳優たちの熱演もさることながら、8K定点+イマーシブサウンドで克明に再現されたピンスポット照明やSEの劇的な演出は、一瞬で勝敗が決まる競り合いの迫力、競技に賭けるそれぞれの熱い思い、仲間との絆、ライバルとの激闘といったエモーショナルな名場面を強く印象づけた。収録日は大千穐楽。公演の完走を祝い、続編制作決定の告知を会場一体となって喜ぶ20分間におよぶカーテンコールは祝祭感に満ちていた。

 

舞台『弱虫ペダル』THE DAY 1 舞台写真(撮影:金山フヒト)

 

 
10月18日18時から上映された維新派「トワイライト」(2015)。奈良県曽爾村での公演をハイビジョン多カメラで収録した映像を、8Kにアップコンバートして上映された。遠景に山並みを望む運動場に並べられた白い椅子たち。夕暮れ時から刻々と移り変わっていく情景に、主人公であるワタル少年の記憶、青年となったワタルの旅が浮かび上がる。少年時代のノスタルジーと土地固有の歴史、さまざまな記憶が響き合うスケールの大きい野外劇で、まるで日没や天候も演出かのような、カット割りも美しい映像が展開された。DVDとしても販売されている今作の音響をつとめたのは、本イベントのイマーシブサウンドデザインである田鹿充。パーカッションが力強い印象を残す内橋和久の音楽に包まれるような極上の鑑賞体験を、満席の会場にもたらした。

 

維新派「トワイライト」舞台写真(撮影:井上嘉和)

 

 
清水翼(維新派制作)、平野舞(維新派俳優)が登壇したアフタートークでは、武田知也(舞台芸術プロデューサー/一般社団法人ベンチ)を聞き手に、野外公演の魅力と難しさ、苦労など、作り手の立場から制作秘話が語られた。また平野は、本作が、2016年に逝去した松本雄吉(維新派主宰)の維新派における最後の作品であり、関西弁や変拍子を用いた独自の表現スタイル”ヂャンヂャン☆オペラ”が極まった作品だと語る。清水は「トワイライト」の映像は、普段は映像化された維新派の作品をあまり見ない松本も気に入っていたと明かした。また、維新派は活動自体を何も残さないことを美学としていたため、解散後にアーカイブを残していくことへの葛藤はあったが、活動を継続する中で起きた自身の意識の変化について語った。

 

10月19日18時からはマームとジプシー「cocoon」(2022)。コロナ禍での延期を経て二年越しに実現した待望の再々演を、8K定点+イマーシブサウンドで上映。女子校に通う主人公・サンとクラスメイトたちの、沖縄の光と自然に満ちたにぎやかな学校生活が、戦況の悪化により変化していく様が、服の質感まで映し出す8K定点の克明さで上映されていく。沖縄戦をモチーフにした今作は、ガマでの看護隊活動、解散と逃亡のなかで、ときおりリフレインする在りし日の日常、その生と死のコントラストは強烈で、描かれた時代から時を隔てた現代だからこそ、過去と現在が地続きにあると突きつけるモノローグが響く。少女たちの声はもちろん、死を前にした傷病兵の悲痛な長広舌も、明瞭に聴きとれるからこそより胸にのしかかるものがあった。
 

マームとジプシー「cocoon」舞台写真(撮影:岡本尚文)

 

 
この日はユニバーサル上映会として、スクリーン上手で手話弁士2名が交代で立ち手話通訳を行った。上映後のアフタートークで、作・演出の藤田貴大は、戦争が現在進行形となった現在での上映に対し、初演から十年以上経った本作の「こんな世界になるなんて誰も想像していなかった」という台詞を引くとともに、過去の作品が現在の自分のクリエイティビティにもヒントを与えると、今回の機会に感謝した。手話弁士をつとめた那須映里(手話エンターテイナー/役者)は手話通訳にあたり、徐々に日常に変化が現れていく様子や、作中で現在と過去が交錯するシーンをどのように表現するか苦心したと語る。廣川麻子(TA-net理事長)は、今回のろう者による手話弁士によるリアルタイム通訳は舞台映像だからこそ提案できた試みで、2時間半の作品を通しで通訳できたことに可能性を感じたと手応えを語った。

 

10月21日10時半の蜷川幸雄七回忌追悼公演「ムサシ」(2021)。井上ひさしの書き下ろし戯曲を蜷川幸雄が演出し2009年初演、アメリカやイギリスなど各国でも公演を重ね世界で絶賛された作品。今回上映されたのは、蜷川の七回忌を前に、出演者でもある吉田鋼太郎が演出もつとめ、再演された2021年公演。誰もが知る宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島での決闘から物語は始まり、鎌倉の禅寺を舞台に思いもがけない物語が展開していく。幾重にも仕掛けが張り巡らされた脚本と、藤原竜也、溝端淳平、鈴木杏ら名優たちの熱演は、親子の縁や復讐の虚しさ、命の大切さといった重厚なテーマと同時に、随所に笑いを誘うドタバタやコミカルな場面もあり、極上のエンターテインメントを味わえる3時間(休憩込み)となった。

 

蜷川幸雄七回忌追悼公演「ムサシ」舞台写真(撮影:田中亜紀)

 

 

この回はユニバーサル上映会で、音声ガイドや字幕ガイドを利用して鑑賞する観客の姿も多く見られた。終映後には石井健介(ブラインドコミュニケーター)、Nyanko(モデル/手話パフォーマー)によるアフタートークも行われた。今作での、音声ガイドと字幕ガイドによる情報サポートの内容や、それぞれの鑑賞サポートでの情報量の違い、今後、鑑賞サポートのためにあるとうれしい情報など、バリアフリー上映の意義や発展のための課題が提示された。また、時代劇ならではの字幕情報の馴染みのなさや、声の類似による掛け合い場面での混乱、吉田鋼太郎や白石加代子といった名優のセリフの聞き取りやすさといった、この作品ならではの発見も多く指摘されるとともに、石井は作中の台詞に自分の個人的な体験を想起し、「苦痛やつらい体験も、生きているからこそ感じられる」とあらためて実感したと、物語に心動かされた感想を語った。

 

21日15時からは、宮城聰(演出家・東京芸術祭総合ディレクター・SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督)、福井健策(EPAD代表理事/骨董通り法律事務所)によるトークイベント「東京芸術祭2023×EPAD「時を越える舞台映像の世界」」が行われた。数時間前に東京駅で上演された「マハーバーラタ」の話を皮切りに、演劇を映像でアーカイブすることの重要性、創作や教育における過去の記録の重要性など、舞台芸術と記録をめぐるトークが展開された。(詳しくは「よみもの」別記事にて公開予定)
 

 

 

 
会場入口、ロワー広場には8Kモニターが設置され、これまでEPADが新規収録した8K映像を8Kモニターで上映。高画質映像を間近で体験できる。